新作が発表される度に世界中から注目を浴びる映像作家・是枝裕和。『誰も知らない』から6年、自身も父親となり、満を持して描いたのが、子供を主人公にした感動エンターテイメント『奇跡』公開中。
6月18日(土)に、シネマライズにて一般のお客様に向けた是枝監督によるティーチインを実施いたしました。

■日時:2011年6月18日(土) 21:40〜22:10
■会場:シネマライズ(渋谷区宇田川町13-17 ライズビル)
■登壇者:是枝裕和監督(49)

客席は、皆ひっきりなしに手を挙げ、質問は途絶える事がなく、憧れの是枝監督から直接話が聞けるとあって、目を輝かせながら熱心な様子で話を聞き、所々で笑いが起きる等の大盛り上がり。メモをとる人も多かった。
最後に監督はデビュー作からずっと続けているこのティーチインは素晴らしいものだと語り、客席の感動の大喝采と共に、会場を後にした。
ティーチイン終了後、ロビーに出た監督には大勢のファンが、監督にサインをもらおうと殺到し長蛇の列ができるなど、人気の高さが伺えた。

『奇跡』の是枝監督ティーチインは、この日18日(土)も川崎チネチッタ、シネマイクスピアリに続く3度目で、今後も、6月19日(日)関西の伏見ミリオン、京都シネマ、26日(日)立川シネマシティ、UC浦和、シネリーブル池袋、7月3日(日)吉祥寺バウスシアターなど、今後も続々と実地予定。

ティーチイン内容

Q.是枝監督の映画は子供は主人公のものが多いですが、子供が主人公の映画はモノローグが入っていることが多いのですが、監督映画にはあまりそ
れがないように思います。モノローグが入っている方が分かりやすいと思うのですが?
監督:そうですね(笑)。僕の映画でモノローグが入っているというと、『空気人形』がくらいですね。でもあれは人形なので逆にそれがいいと思ったんです。それぐらいが限度ですね。僕はずっとドキュメンタリーを撮っていたので、モノローグを入れたりすると失礼にあたったりすることもあるので、私はあなたじゃないから内面までは分からないけれど、外に現れたもので内面がどう見えるかということをずっと考えてやってきたので基本的にそういうスタンスでいきたいなと思っています。今回の作品では、後半に主人公の航一が奇跡を見にいくというシーンで少し描いているかなと思います。(何を願ったのか聞こえなかったのですが?)あそこは、わざと聞こえないようにしています。もどってきてお父さんとやりとりで何を願ったのか分かるようにしています。

Q.この作品を見るのは3回目ですが、見れば見るほど無駄のない映画だと思います。今回の映画は以前までの監督の作品と比べて希望があると言うのを事前に聞いたのですが、私も観た後とても明るい気持ちになったのですが、何か気を付けたことなどあったのでしょうか?
監督:明るいものをというのは、最初に考えていましたね。つくろうと思っていた時、自分自身の調子も良くなくて元気になりたいなと思っていたので、観終った後に、ほっこりした気持ちになるような作品をつくりたいと思っていたのが半分と、残りの半分は、まえだまえだの二人に会ったことで、前向きにやっていこうと思えたんですね。あの二人を見ていると、元気になるので、その影響が大きいですね。心がけた事があるとすると、あの二人の魅力をちゃんと撮ろうと思って撮ったので、希望があるように見えるのだと思います。お兄ちゃんの航基は5回までは観て何か発見があると言っていたので、是非、あと2回観てください(笑)。
Q.:映画に出てくる子供たちは、これから成長していく中で、何も信じられなくなるような壁にぶち当たると思うですが、今後どのように現実と向かい合っていくのでしょうか?
監督:そうですね、『犬が生き返らない』という設定は、子供たちには、あの場で説明しました。子供たちにも、「生き返らないの?ハッピーエンドにしてよ。」と言われました。あそこで、犬は生き返らないのですが、あの犬を飼っていた少年には、「冒険から戻ってきた時に、一番最初に歩き出すんだよ。」と
話しました。それまで彼はずっと一番後ろを歩いていたんですが。“成長”ってそういうことだと思います。主人公も家族は元通りにはならない、もう奇跡はおきないと気がついて帰ってきているんです。だけど、別の形で起きることで、少し自分の暮らしている状況とかが変わったりとか、そういうことが積み重なって“奇跡”になるんじゃないかと思います。

Q.:谷川俊太郎さんの詩を主人公が朗読しているシーンが印象的でしたが、あれを使うというのは早くから決まっていたのですか?
監督:谷川さんの詩を航一に朗読させようと決めたのは、撮影が始まる直前であまり早い段階ではなかったです。助監督に頼んで鹿児島の教科書に載っている詩を集めてもらい、ちょっと航一にとって皮肉なものがいいなと思って選びました。火山が噴火した中で生きる事が多分彼にとっての“生きる”ことですね。その衝撃が集まっているのが世界なんだということを考えました。あそこのカットもはじめから決めず撮影をしながら印象に残ったものを撮っています。

Q.:今回の『奇跡』の内容はリアルライフなのでしょうか?
監督:非日常の冒険を描いてはいますが、奇跡がどっちで起きるかというのは、冒険の先でおきるのではなく、むしろこちら側で起きているということを描くための冒険であるので、基準は非日常ではなく、日常側においています。冒険も大切ですが、冒険を終えて戻ってきた彼が、暮らしていく世界というか社会、彼の空間をきちんと描きたかったです。

Q.:今回子供たちが“奇跡”を願いますが、私も子供の頃同じような体験をしたことがあります。監督の“願い”はなんですか?
監督:今回オーディションで900人近くの子供たちにあって、ほぼ全員に「起きてほしい奇跡」を聞いています。その中で「飼っていた犬が死んでしまったので生き返って欲しい」と言っている子がいて、他の子とも話しながら、何歳ならこういうことを願っていても辛気臭くないかなとか確認しながらやっていました。僕自身は、子供のころ、卒業アルバムにプロ野球選手になりたいと書いていたけれど、それはなれないと分かって書いていましたね。
今の願いはなんだろうな、毎日食べるご飯がおいしいとか、一日一日のささやかなことですね。かけがえのないものが大切だと思っています。

Q.:子供たちが一人一人が語るシーンは、どのように撮影したのですか?すごく子供たちの会話に入り込んでしまった感じでした。
監督:そんな感じが出るといいなと思って撮りました。観ている人もあの場に参加しているような雰囲気がでるといいなと。子供たちとの距離は、前はそんなに子供と関わらなくていい、関わることが愛みたいなことが、ちょっと嫌だなと思っていたのですが、最近は、子供たちとの距離は少し近いのかなと思います。だけど、僕の好きな映画は、子供は子供でほったらかしにしているものですね。大人は大人の時間を日々生きていくことで精いっぱいなので、そういった事で互いに隙間が生まれて、子供たちが冒険に出たりするんです。(おじいちゃんの役がとてもいいですよね?)橋爪さんは本当にイカしていますね。撮っていて、こういう爺になりたいなと思いました(笑)。質問の願いを語っているところですが、撮影前に、一人一人を別々に呼んで、何を願うか聞きました。そしたら、「ゆとり教育をもう一度」なんていう答えがでてきたりして(笑)。それで、本番では用意していなかったことを次々と聞いて、言葉を引き出していきました。これは、オーディションの段階から行っていて、セリフ以外のことをしゃべってもいい現場というのをつくりました。

Q.:元女優のシングルマザーの娘が女優を目指している等、子供たちの設定には特別な意味があるのでしょうか?
監督:そんなに特別ことはないですね。虐待を受けているとかといった設定はやめようと思いました。例えば、主人公・航一の友達の佑くんのお父さんはパチンコをやっていて働いていない。彼が先生と結婚したいと言っているのは現実逃避なんです。主人公の航一は現実的に生きているので、彼の周りにはそういう子がいるといいなと思いました。お兄ちゃんは弟の方が、楽しいだろうなと思っているんです。これは裏設定なんですが、二人のお父さんの名前は健次で次男なんです。だから、弟は弟同士で上手くやっていて、長男は気をもんでいるんです。僕は長男なので気をもんでいるタイプなので、次男のあの感じはしゃくに触るんですよね(笑)。

Q.:最後に主人公が、言った言葉も印象に残ったのですが、ローカル線が通った後に、おばあちゃんが消えるシーンがあるのですが、おばあちゃんはどこにいったのでしょうか?
監督:あれは、忘れ物を取りにいったという設定なんですが、どう見せようか悩んだところです。本当に消えて見えるので、別アングルから撮影したカットにしようかとも思ったんですが、子供には、消えたように見えたということにしたくてああしました。撮ってても面白かったですね(笑)
印象に残っているとおっしゃた、最後に航一が言った言葉の中に“世界”とありますが、あれは彼が離れて暮らしているいつもは適当なお父さんに言われたまじめな言葉が何となく頭に残っていて、それを理解しているかいないのか分からない状態で弟に話して、弟がそれをまたお父さんに話してといった具合に、この3人が“世界”という同じ言葉でつながっているようにしたかったんです。