映画監督・西川美和が語るデンマーク映画『光のほうへ』

絶賛公開中のデンマーク映画『光のほうへ』の公開と、その原作本である「サブマリーノ 夭折の絆」の刊行を記念しトークショーを行いました。

映画監督であり、直木賞にノミネートされるなど作家としても活躍される西川美和さんを迎えて、お話をお伺いしました。
お相手は、映画ライター、編集者として各雑誌で活躍される門間雄介さんです。

・実施日時:6月18日(土)18:30〜
・場所:ジュンク堂新宿店 
・登壇:西川美和(映画監督)×門間雄介(編集者・ライター)

門間雄介(以下、門間):
西川さんは映画『光のほうへ』をどのようにご覧になりましたか?
感想を教えてください。

西川美和(以下、西川):
赤ん坊の泣き声から始まる最初のシーンが、すごく良いと思いましたね。
真っ白な空間の中で、汚れた少年の手と、生まれて間もない玉のような赤ちゃんとのミスマッチな組み合わせに、幸せな家族の話ではなくて、これから危険な事が起こると予感せずにはいられませんでした。
そういう導入部分のプランがすごく上手くて、冒頭から非常にワクワクしました。
門間:
最初は美しい光に包まれているけど、一転ここから酷な展開になっていきますね。
様々なテーマが含まれていますが、この作品ではデンマークのあまり知られていない過酷な社会状況も描かれていますよね。

西川:
一般的には社会福祉のシステムも成熟した国という認識があったので、こんなにも汚れて澱んだ一面があったのか、と思いました。
でも、どこの国の社会でもそういった暗部はあると思いますし、そういう意味では別にデンマークに特化した話ではないと思いました。
ですので違和感は無かったですね。日本でもあり得ることだと思います。

門間:
この作品と同様、西川さんも作品の中に社会的な面を確実に取り入れようとされてると思うのですが、いかがですか?

西川:
特に“社会派”を意識している訳ではないのですが、現代劇を描いていると、自ずとそういった側面が入ってきてしまいますよね。
自分が生きている時代、まさに“今”は、教科書だけではわからないので、『光のほうへ』のような現代社会を描いている作品が、配給されるのは良いことだと思います。
遠い国の現代の映画を、もっと多く日本で公開して欲しいですね。
ビジネスももちろん大事だけど、国と国が繋がるツールとして映画は有効だと思います。

門間:
こういった作品が最近では減ってきましたよね。
西川監督が本作を気に入った理由として、これが兄弟の話であることも大きな要因ではないかと思ったのですが、監督作品の『ゆれる』もまさしくそうですよね。

西川:
これも意識している訳ではないのですが、兄弟は描きやすい。
同じ母親から生まれ、同じ環境、同じ条件のはずなのに、当たり前ですが、全く違う。
それは他人同士の関係よりも比較しやすいですよね。
切るに切れない“枷”のある関係性を、男兄弟というモチーフとして選んだに過ぎないです。
兄弟に限らず、色々な関係性に挑戦してみたいですね。
ソフトでわかりやすい映画が最近は多いですし、それが決して悪いというわけではないのですが、映画の“多様性”が失われるのは怖いことです。
作り手側も勿論ですが、観る側も色々なものを受け入れる“お皿”を大きく育てていって欲しいと思います。