公開記念のトークイベントでも鋭い切り口で大相撲をめった斬りにしたジャーナリスト・上杉隆氏が再び『ヤバい経済学』の劇場トークショーに登場!今回はダブナー氏と同じ、ジャーナリストの視点から日本の問題について語っていただきました。

■6月19日(日)11:00〜の回上映後

 僕とダブナーとの共通点は前に「ニューヨークタイムス」で働いていたことです。でも、はっきり言って彼がいつ働いてたのか全然知りません。もちろん彼も僕を知らないでしょうけど。『ヤバい経済学』はニューヨークタイムスと似た価値観でやっていってますね。
 ジャーナリストの武田さんが映画の取材を受けたことは聞いてたんですよ。当時、日本で武田さんが干され始めた頃でしたね(笑)日本でジャーナリストが干されると海外メディアの取材が多くなるんです。私も3月の東京電力会見以降、放射能問題で干され出したら世界中から取材が来ました。日本の地上波は出るとモザイクかかっちゃうんですけど、アルジャジーラ、CNN、BBCにはちゃんと顔写真付きで出てますよ。
 武田さんが週刊現代で相撲の取材をやっているときに私のラジオ番組にも出てもらってたんです。ところが八百長問題、力士の死亡事件を扱ってから武田さんが干され始めたんですよね。だからなるべく出てもらえる番組には協力してもらってたんですけど、とうとう武田さんが訴えられたときには”訴えられたらそれはマズイ”っていう変な日本の文化があって武田さんが地上波から出入り禁止をくらうんですね。それでも番組に出てもらおうと説得したら、出演の前日になってディレクターが番組が降りてしまったんです。番組に出演するたび誰かを犠牲にする、という非常に厳しい状況にありました。結果として今は、武田さんの取材が正しかったと証明されたわけですから逆転訴訟するのかな。そんな感じで日本の報道っていうのは時代の空気とか流れによってどうにでも変わる、という。テレビ、新聞が報道していることが結果として180度違ったということが数年経つとわかるんですね。今、起こってる放射能問題っていうのが今報道されていることと違うってことに数年経ったら気づくのかな。気づいたときには手遅れになってますけど。大変残念でした・・・って夢も希望ないな。
 イタリアのあるスポーツ新聞が日韓ワールドカップサッカーの直前にセリエAの八百長をすっぱ抜くんです。その時世論は「なぜワールドカップの大事なときにイタリアのサッカー選手に傷をつけるようなことを書くんだ」という議論が出たんです。それに対して新聞社は「健全にサッカーをしてる人間に失礼だから書かなくちゃいけない。サッカーを愛しているからこそ追究する」と反論したんです。最終的には国の裁判で有罪になった選手もいます。チームは降格、罰金でした。だからこそ今、立ち直ってるわけです。メジャーリーグでもドーピング問題があってやはりスポーツ新聞が追究したわけです。ところがなぜ、日本ではそうできないんだ、と書いたら・・・消えましたね。一瞬で。日本ではちゃんとやろうとしているジャーナリストに対してメディアが応じないんです。
 ニューヨークタイムスにはいつもニューヨークタイムスの悪口を紙面に書くコーナーがあるんです。それを読んでいると「反対意見もあるんだ」ってみんな多様な意見があるってことに小さい頃から慣れて育っていくんですね。
 日本では多様性をメディアのほうが壊しているんです。つまりは記者クラブ問題になるわけですが。震災問題が一番分かりやすいんですけど、政府と東京電力の発表を報じてそれが正しいと言い続けることですね。放射能出てないって最初言ってましたし、人体に影響はありません、プルトニウムは飲めます、とかね。政府が発表すればどんなにデタラメでも正しくなっちゃう。全て悪いわけではないです。ただ、問題は多様性がない。反対意見を並べないんです。多様な意見提供して視聴者に判断させればいいのに。ひとつの答えに決めたら反対意見は絶対に許さない状態になって議論が先に進まないんです。できないんじゃなくてやるかやらないかの問題。世界中で当たり前にやっている考え方ができないんで、僕や武田さんが干されてしまうわけです。別に手柄取りたいんじゃなくてそのときちゃんと報道してたら助かってる人がもっといたじゃないか、という無力感を感じてしまうんす。記者クラブって唯一日本にしかない制度なんです。それがある限り、僕はもう無理かな、とだんだん疲れてきちゃったので今年いっぱいでジャーナリストを辞めて、ゴルフに専念します(笑)