本日、6月10日に映画「ヤバい経済学」の山形浩生さんのトークショーがありました。

経済学の観点から今の経済などを分析、解説し、映画を観た人にもこれから観る人にも楽しめる、幅広い知識を交えた内容となっております。

■6月10日(金)18:00〜の回上映後

どうも。山形浩生です。頂いたお題は「経済学で儲かるか」っていう話なんですけど、まぁ儲からないっていうのが答えです。株式市場分析で有名なユージン・ファーマっていう経済学者がトレーダーに「そんなに頭いいんならなぜ金持ちになれないんだ?」と聞かれ、「金持ちだからって頭良くないのと同じ理由だ」と答えた。経済学という学問がわかっていてもなかなか儲けることはできないわけです。経済学の大半は、なぜ儲けられないのかという分析なんです。その一方でユージン・ファーマは効率的市場仮説(ニュースや材料は全て株価に織り込まれており、株価は常に適正価格になっているという考え方)というものを作ってしまって、市場原理に任せると色々なことがすごくうまくいくんだという理屈を構築して、ひいてはバカなトレーダー達を儲けさせ、世界経済をめちゃくちゃにして、グローバル金融危機の大きな原因を作ってしまったという皮肉なことがあります。経済学は自分は儲けられないけれど人が儲けることができる枠組みを作ってしまうわけです。

 シカゴ大学はユージン・ファーマもレヴィットもいる大学なんですけど、比較的何でも市場原理に任せればいいんじゃないかっていう主張をする傾向が強い学校です。それと同時に経済学帝国主義(「ドラッグの経済学」「犯罪の経済学」など経済学の考え方を他の分析に持ち込むこと)の本拠でもあります。相撲の八百長を確率で見るのが経済学かっていう違うんですけど、でも、今まで経済学として扱ってこなかったことを扱ってしまう。それが重要なんだと言っているのがレヴィットなんです。彼の分析の仕方はとても面白くて、人が全く考えていなかった視点を出してみて、統計学的に分析して、さらに人を動かしてどんな要因なのかって出していく。そのやり方が彼の魅力です。一方で批判もあります。レヴィットより前にシカゴ大学にいたゲーリー・ベッカーは犯罪、売春、ドラッグの経済学をやっていたときに、日本のエラい経済学者は「そんなくだらないことで経済学を使うなんて許しがたい!」と批判したんですね。ところが、その批判してた人達が晩年になってくると、みんな言い始めるわけです。「経済学はお金だけ追求してるのはよくない」「資本主義が破壊してしまう」って。人間らしさを取り戻した心のある経済学が必要なんだって。

 今回の世界金融危機が起きたときにもやっぱりみんな同じこと言いました。拝金主義の完全合理主義の経済学は間違っている。新しい経済学を出してこなきゃいけない。じゃ、それって何?どうすりゃいいの?って話になったときにやっぱり出てくるのはレヴィットみたいな研究なんです。どうやって具体的に人を動かしているのかということを曲がりなりにも説明するやり方、お金以外のインセンティブがお金と絡んで人を動かしていくというのを説明するやり方です。実はこれは日本の頭の固いほうの経済学者達が否定してきたことでもある。人間の心のある経済学っていうのはどういうふうに入れたらいいのか?今のままだとレヴィットがやっている研究は、お金を儲けるにはどうしたらいいのか、と人が儲ける枠組みを作ってるだけになってしまうかもしれないんです。

 例えば今、出ているのは保険加入の募集をするときに、用紙に「私が担当です」ってキレイな女性の写真を付けるといきなり加入率が高くなる。女の子の写真がついてるからって何の特もしないのに。レヴィットの話を応用すればこういった話も出てくるだろう。他の分野で人を動かして儲ける話が出てくるかもしれない。儲ける人っていうのは人が全然儲からないって思うことをやって儲けるんです。今は全然関係ないと思っても10年後くらいにレヴィットバブルみたいなのができて世界がまた佳境に陥ることがあるかもしれないと思っています。

—Q.AKBの経済学ってどう考えてますか?
 実はネット上で闘ってることでもあるんですけど(笑)僕はあまり認めてないんですね。「もし○ラ」はそんなにヒットしてないって聞くとあの人気は少数の人が支えていて、バブル的に人気を高めているのだと思う。リーマンショックを地でいくような営業モデルではないかと思っています。いずれそのバブルが崩れてCDが売れなくなったら「それ見たことか」ってなるんですけど、そこらへんは今後1年くらい注目して見て頂きたいです。