新作が発表される度に世界中から注目を浴びる映像作家・是枝裕和。主演の柳楽優弥に日本人初のカンヌ国際映画祭主演男優賞をもたらした『誰も知らない』から6年、自身も父親となり、満を持して描いたのが、子供を主人公にした感動エンターテイメントが、いよいよ、6月11日(土)より新宿バルト9他にて全国公開します。

本日、有楽町電気ビル北館にて外国人記者クラブ【日本外国特派員協会】に向けた是枝監督によるティーチインを実施いたしました。

■日時: 2011年6月7日(火) 21:00〜
■会場:有楽町電気ビル北館20階(千代田区有楽町1-7-1)
■登壇者:是枝裕和監督(49)

Q.日本語タイトルの『奇跡』と英語タイトルの『I Wish』はなんだかニュアンスが違うように感じるのですが。
監督:タイトルは悩んだのですが、以前から映画のタイトルを一緒に考えてきたニューヨーク在住の女性の方ともアイディアをいつくか出していて、
『ミラクル』だと少し宗教的な感じがしてしまうし、作品の内容が願いを叫ぶというところが一つのキーになっているというのもあって、映画の中では
“奇跡”は“叶う”のではなく、“願う”という意味で、英語タイトルは『I Wish』とつけました。また彼女と話していて、動詞がいいのではという意見もあり
そうしました。僕はタイトルを気に入っています。

MC:冒頭のご挨拶で監督はこの作品をご自身の娘さんが10歳になったら観て欲しいとおっしゃていましたが、娘さんにはこの映画から何を感じとってほしいですか?
監督:どう見て欲しいというのは考えていないですが、番組を作るときでも母親に向けてなのか、取材で出会った人なのか、誰に向けてつくるかというのが其々違うように、今回は対象を娘にしました。どう見て欲しいかではなく、この作品を見て、世界は豊かなもので出来ていると感じてくれればいいな。
まあどう思うかは分からないですけど(笑)。

MC:映像描写が自然で美しかったのですが、日本の特に地方の風景を撮ろうとすると映像が綺麗過ぎてしまうのですが、そうではないのはなぜでしょうか?
監督:注意したところは、観光映画にならないように心がけました。桜島もそうですが、絵葉書的に見えてしまわないよう、日常的にするように注意しました。

MC:『誰も知らない』の時もそうでしたが、子供を主人公にする時、主人公は一人にするのが一般的ですが、複数の子供を主人公にするのは何故でしょうか?
監督:複数で撮ろうと決めているわけではないのですが、子供は複数で居ると勝手な事をはじめて化学反応を起こします。どのこの隣に誰をおこうか?等は考えてオーディションをしましたが、人数は特に決めていませんでした。何故か、5人〜7人と奇数にするというのは決めていましたね。

MC:監督は娘さんが10歳になったらこの作品観てほしいとおしゃっていましたが、この作品は子供から大人まで楽しめる作品だと思います。
監督が沢山のオーディエンスの伝えたいことは何でしょうか?
監督:伝えたいメッセージを言葉にするのは難しいですね(笑)。子供たちがスクリーンからはみ出すくらい、寝ていたり笑っていたりしているので、そういう事をとらえたい、届けたいと思っています。それを僕はメッセージとして伝えたいですが、やはりそれが観客にどう届くかは分からないですね。

MC:作品の中で、子供たちが『奇跡』について語っているシーンがありますが、あそこはとても自然でした。台本はあったのでしょうか?
監督:もともと子供たちには台本を渡していないので、文字としてスクリプトを見せていません。その時その時に伝えるという方法で進めていました。主人公の二人にも、両親が離婚していて…と兄弟の設定を僕が東京弁で伝えて、それを彼らが関西弁に置き換える。その作業が今回はとても上手くいったと思います。あの奇跡を子供たちが語るシーンは、一人一人を呼んで、個人個人に「どんなことをお願いする?」と聞いて、答えたことで、「それはおもしろいから言ってみて」とやってもらったりして、そこから先はゲームのようにそれぞれに自然に引き出してもらって進めていきました。例えば、ある子に「お母さんはなんで女優を辞めたんだと思う?」と聞いたら、「自分が生まれたから」という答えが自然に出てきたので、それはそのまま使いました。あの表情と言葉が出てきたからあのシーンは残しました。無理なら全て切ってしまうつもりでした。

MC:『誰も知らない』と比べて、本作には希望があるように思います。これは監督ご自身が父親になられた事が関係あるのでしょうか?
監督:父親になったことが関係あるのかは分かりませんが、前作まで一緒にやっていた自分の父親的存在のプロデューサーが亡くなってしまって、
この作品はまず自分を元気にする為に作りたかった。主人公の兄弟が何しろ元気で、二人に委ねてみようという気持ちになったんです。
あの二人に従うことで、一歩、半歩前向きな映画になったと思います。物語としては、ハッピーエンドではないかもしれませんが、兄が最後に
前向きな一言をつぶやくことで、ハッピーエンドなんじゃないかなと僕は思っています。
『誰も知らない』と『奇跡』を比較するなら、(本作に希望があるのは)そこなのではないかと思っています。でも、日常にかけがえのないものがあるということを伝えたいということは(『誰も知らない』の時と)変わりません。

会場に集まった、世界の是枝監督の話を心待ちにしていた約140名の外国人記者クラブの記者たちからは、様々な質問が次々と飛び交い、
それを一つ一つに丁寧に答える是枝監督。
ティーチインが本作の上映直後に行われたこともあり、作品の素晴らしさ酔いしれた後の記者たちは終始、興味深そうに話しに聞き入っていました。
また最後に是枝監督に、FCCJ(日本外国特派員協会)名誉会員の資格が授与され、大きな拍手が会場を包みました。