現在公開中の『まほろ駅前多田便利軒』ですが、6月5日(日)にまほろ市のモデルでもあり、実際に映画のロケ地にもなった町田市にて、原作者の三浦しをんさんと大森立嗣監督という初のツーショットにてトークショーを実施いたしました。

町田の魅力、町田での撮影時の裏話に始まり、お二人の作品づくりにおける共通点まで、約1時間にわたりフリートーク形式で展開。「原作者」「監督」というそれぞれの視点から捉えた『まほろ駅前多田便利軒』の世界観に、会場全体が飲み込まれたトークショーとなりました。

<トークショー概要>
【日時】6月5日(日)
【場所】町田市中央公民館ホール
【登壇者】大森立嗣・三浦しをん

お二人が一番最初に会った時のことからトークがスタート。

【大森】初めてお会いしたのは脚本を書き始める前ですね。まだ僕が監督するとは決まっていない時でした。

【三浦】そうですね。それで、上がって来た脚本を読んだらとても良くて、前作の『ゲルマニウムの夜』も好きだったので、プロデューサーに「大森さんが監督されたりはしないんですか?」と聞いた覚えがあります。『ゲルマ〜』は原作があって、脚本は別の方が書かれていて、『ケンタ〜』はオリジナルの脚本ですよね?今回のように原作があって、ご自分で脚本を書かれるというパターンはどうでしたか?

【大森】脚本を自分で書くというのは、すごく大きいです。原作があっても、一度自分の中に落とし込んで書いていますし、そういった行為が実際映像を撮るときにも影響してきていると思う。ただ、もう一人別の脚本家を入れるっていうのも、別の刺激があったりしておもしろいこともありますけどね。映画はたくさんのスタッフが関わってできるものだから、”俺が俺が”じゃダメだと思うし、現場のスタッフの意見で変わっていったりもする。だから脚本も特にオリジナルにこだわったりすることはないですね。

【三浦】大勢で作るっていうのは良いですよね。一人で書いていると、やはり一人の脳には限界があって、「つまらないな」と思うこともあります。

—脚本を読んで、”こうしてほしい”など三浦さんからのリクエストについて聞かれると

【三浦】一ヵ所だけ。行天が刺される場所。原作では証明写真BOXなんですが、脚本では障害者用のトイレになっていたんです。いつも「ココ、絶対人が殺されててもおかしくないよな」と思いながら証明写真BOXの前を通っていたというのもあって、「このシーンは証明写真BOXにしてもらえませんか」と言いました。

【大森】脚本を書く前に町田の街を歩いていて、そのトイレを見つけて「あ、これだな」と思ってしまって。ドアがゆっくり閉まる感じが、その直前の行天の飄々とした走りと合わさったら面白いなと思ったんです。
   
【三浦】私はそのトイレの存在を知らなかったので、監督から話を聞いて「なるほど、それなら」と折れました。

—三浦さんから町田の印象を聞かれると

【大森】人が多いなぁと(笑)。あと、小説からも感じていましたが、ところどころで”裏”というか”闇”を感じられる街で、そこが作り手からすると色っぽく、魅力的に思えました。

【三浦】わかります。整いすぎてしまうと逆に住みにくかったり、生活感がなくなったりしますよね。実際に監督の作品を通して町田の風景を見ると、普段肉眼で見慣れているものとどこか違って、鮮やかで、キラキラしてみえてうれしかったです。そういえば、大森監督の作品には都市の描写が少ないですよね?

【大森】渋谷、新宿とかって、それぞれがその都市に対してイメージをしっかり持っていて、そういったフィルターを通して見られるのがいやだなというのはあります。

【三浦】わかります!だから私もあえて”町田市”ではなく”まほろ市”にしたのかも。

と、作り手ならではの共通項で盛り上がりました。

—今度は大森監督から三浦さんへなぜ町田を舞台にしようと思ったのかという質問が。

【三浦】郊外都市を描きたいなと思って、土地勘のある町田を選びました。それと、家族単位に入れない人を描きたかった。だけど家族単位があまりにしっかりしている街だと、そういう人たちってどこかに行ってしまう。町田はある意味猥雑で、家族単位にもちょっと入り込めそうな感じがある。

【大森】町田は本当にいろんな人がいますよね。その中で最終的には”いろんなヤツいるけど一緒に生きていけばいいじゃん”っていう流れがあるのがいいですよね。

【三浦】本当にいろんな人がいる。星(高良健吾)が現れるシーンの撮影現場にお邪魔してたのですが、本当のチンピラが通りかかってましたね(笑)。

【大森】そうそう。でも町田ロケでは意外に絡まれることはなかった(笑)
基本的にはわかり合えない「個」なんだけど、それを尊重しあっている感じがありますよね。小説からも感じていましたが、それぞれを色メガネで見ていない印象がある。

【三浦】そうですね。(チラシを見ながら)この多田と行天の佇まいは、完全に地位などにこだわっていない佇まいですよね。

—ここで三浦さんから監督にどうしても聞きたかったという質問が

【三浦】監督、ケンカは強いんですか?劇中の殴られる人の描写がすごくリアルで。「ひぃ〜」って言ってる松尾スズキさんとか…(笑)だからさぞやケンカの経験があられるのかと(笑)

【大森】いやいや、そんなことはないですけど(苦笑)ただ、1990年頃から、近いところにある日常を淡々と描写している日本映画が増えていて、その流れに対する抵抗はありますね。ケンカのシーンも、ちゃんと”見せ物”にしたかったというのはありますね。

—三浦さんの第一印象について聞かれると

【大森】女流作家の方って、怖いイメージがあったので(笑)最初にお会いしたときに「怖くなくて良かった」という思いと、「あ、この人となら一緒にものをつくっていけるだろう」と思いました。

【三浦】それはよかったです(笑)

—最後に町田市に対して「もっとこうしてほしい!」というリクエストを問われると

【三浦】なんとかしてほしいところはないですね。どうにかしてほしいところが、どうにもなっていない感じが良いところだと思うので(笑)

【大森】映画館がないのが残念ですね…。

【三浦】今日は町田市長も来ていることですし、なんとかしてもらいましょう!

<補足>大森監督の過去作品「ゲルマニウムの夜」「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」