最新作『トスカーナの贋作』でカンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞したジュリエット・ビノシュ(仏・女優)と、『誰も知らない』などで知られ、ビノシュのファンでもある是枝 裕和(映画監督)との3時間ぶっ通しのトークショー「劇的3時間SHOW」というトークイベントが28日スパイラル ホールにて行われました。

<略称→ビノシュ:J、是枝:K、記者:記>

記:先ほどビノシュさんが是枝監督の映画は、人間味に溢れていて素晴らしいと仰っていたんですが、具体的に心に残っている作品がありましたら、お教え下さい。是枝監督には、ビノシュさんがこれまで出演された作品の中で、心に残っているモノがありましたら、お教え下さい。

J:私は『誰も知らない』、『歩いても、歩いても』、『空気人形』、の三作品を見ていますが、どの作品にもそのカット毎に“人間”というものの真実を見ることができたので、全部印象に残っています。“現代社会に生きる人々の人間性や人間関係の複雑さ”という扱いづらいテーマを、自己陶酔に陥ることなく謙虚に描く監督だと感じています。
なので、私は今後、是枝監督と何か作品を一緒に作れたらな、と思っています。

K:例えばね、子供の頃に好きなアイドルのポスターを貼ってたとして、今、その人が隣に居て、その人が自分の映画を見て、自分の映画についての話をしてくれている。もう本当にどうすればいいんだろうっていう感じです。20代でこの“映画”っていうものをやりたいな。と思いつつも、まだ一歩踏み出せないでいた時に、『汚れた血』という作品で僕は初めてビノシュさんとスクリーン越しにお会いしたんですけれども。そこでのビノシュさんに非常に強い衝撃を受けて。自分のデビュー作を撮る時に、その『汚れた血』という作品を意識して撮っていました。僕も彼女と何かの形で作品をやりたいんですけど、そうすると彼女がこれまでタッグを組んできた監督たちと戦わないといけないなぁと思ってます。

記:あなた(ビノシュ)は早い時期から色々な国の監督の作品に出演していますけれど、普通の女優さんなら怖がってしまうのに、あなたは自身のイメージが壊れることを恐れることなく飛び込んでいけるのは何故でしょうか?
また、新作『トスカーナの贋作』で名前の無い女性を演じてらっしゃいますが、名前の無い女性をどうやって演じましたか?

J:まず、イメージというのは私が作るものではなく、私の行動(女優としての活動)から観る側の人々によって作られていくものだと思うので、自分自身ではどうしようもないものだからそれは皆さんが見たいように見るべきだと思います。
『トスカーナの贋作』で演じた役は、キアロスタミ監督が言うには“アダムとイブ”のようなもので、だから私が演じた役は「女というものはこうである」という風な“女”というものの象徴だったんです。だから、名前がなくても平気でした。

記:是枝監督が映画作りに置いて、曲げたくないものはなんでしょうか?

K:「柔軟である」という事だと思います。脚本に書いていても、現場と役者を見て、その場で脚本を捨てて変更していける柔軟性というのをいつも大事にしています。本当は脚本は現場に持って行かないで作れるっていう状況が、一番良いと思います。“自由に”、“フラットに”って所を一番大事にしています。