渋谷アップリンクにて開催中の『リアル!未公開映画祭』。その中の一本、『カシム・ザ・ドリーム〜チャンピオンになった少年兵〜』は、内戦の続くウガンダで、6歳の時に誘拐され、大量虐殺訓練を受けた少年カシムが、アメリカでボクシングの世界チャンピオンになるという数奇な人生を追ったドキュメンタリー。1月8日の上映では、アフリカ大湖地域を20年近く取材し続けているフリー・ジャーナリストの下村靖樹さんをゲストに迎え、トークイベントが開催された。

下村さんは、『カシム・ザ・ドリーム』について、「カシムさんは、過去に背負っている傷は非常に大きなものだと思うのですが、今は幸せになれている人であり、最高に成功した人です。カシムさんは、子供たちをとても大切にしていました。ジャーナリストとして、アフリカを取材していると『人の命の重さは皆同じ』だとか、『人間の命はお金で買えない』という言葉は嘘っぽく思えてしまうのですが、『子供は未来の宝だ』という言葉だけは、取材現場に行けば行く程、すごく実感するようになりました。子供たちがいてこそ、人類や地球の未来がどんどん繋がっていくし、子供たちの未来を踏みにじる子供兵士という存在を、映画を通して多くの人々に知ってもらい、世界から無くなればいいと思います。素晴らしいドキュメンタリー映画です。」と述べた。

また、「今、世界で約20万人の子供兵士がいます。世界的に子供兵士が注目され、どの正規軍でも子供兵士はいないことになっていますが、実際は、メディアの目の届かない、本当に危険な最前線に子供たちが送られています。以前より、さらに深くその存在が隠されています。」と、日本のメディアではなかなか報道されない現状を説明。カシムのいたウガンダ北部のグル地域の画像をスクリーンに映しながら、来場者から次々に出る質問に丁寧に答えていた。

さらに、「ウガンダの紛争はやや小康状態になってきているのに対し、今、子供たちにとって世界で最悪な国は、ソマリアです。」と、先々月に取材をしてきたソマリアの最新の映像と、画像も紹介。平和であれば、観光事業で経済が潤うのに十分な程の美しい風土の国でありながら、20年以上もの長い間続く内戦で破壊され尽くした街中の様子が伝わってくる映像を交え、銃弾が飛び交う中で身を晒しながら生きていかなければならない子供兵士たちの精神的ストレスを案じながらも、戦闘の中心地から2kmしか離れていない銃声が聞こえる中でサッカーをしている子供たちの映像になると、「ウガンダの人たちは、日本人にはない心の強さを持っていると感じる」と、子供たちとの交流の中で感じたことを語っていた。

「最近のアフリカにおける紛争の理由は、政治や、資源、民族間対立、そして経済など、以前のようなイデオロギーの問題でなく、今は、経済戦争であることが多くなっていて、大変複雑になっています。その分、紛争が終結し、平和な社会に戻るのにも、以前と違って、より複雑な過程が必要になってきています。」と、その困難さも訴える。今、アフリカの問題で新たに注目されているのは、「ビジネス」である。中国がアフリカ進出を強めていて、インフラ整備や、留学生の受け入れ、軍事面などでも、大きな影響力を持つようになってきている。それに対して、欧米各国は警戒を強くしているが、莫大な利権が転がっているビジネスチャンスを巡る各国の複雑な動きに懸念を示す。

「真実は、殺す側にも、殺される側にもそれぞれ存在するものなので、ひとりの人間が理解できるものではありません。今ここで話していることは、あくまで自分の考え方です。自分が伝える考え方を踏まえた上で、他の記事や映像、ニュースなどを見て、新しい考え方やアクションを起こしてくれる人がいたら、今までやって来てよかったと思えます。」と、今までの活動を振り返りながら、「ソマリアでは、避難民キャンプの中で、子供兵士になるようリクルートしているという話があります。今年はリクルートを受けた子供たちの取材をしようと考えています。」と、今後の取材テーマでトークイベントを締めくくった。