12月18日(土)公開映画『海炭市叙景』(かいたんしじょけい)の初日舞台挨拶が、渋谷ユーロスペースにて行われ、出演の竹原ピストルさん、加瀬亮さん、南果歩さん、三浦誠己さん、山中崇さん、あがた森魚さんが登壇した。
『海炭市叙景』は、村上春樹と並び評され、5度の芥川賞候補に挙げられながら賞にめぐまれず、41歳で自ら命を絶った不遇の作家・佐藤泰志の遺作「海炭市叙景」を、熊切和嘉監督が映画化したもの。函館をモデルにした“海炭市”を舞台に、さまざまな想いを抱えて生きる人々の姿を描く群像劇。苛立ちや痛みを抱える登場人物たちを優しく包み込むように描きだし、最後には深い余韻が残る作品に仕上がっている。
函館市民有志の実行委員会によって製作された本作には、オーディションやスカウトで選ばれた地元市民キャストが多数出演している。出演者の皆さんにとっても貴重な体験となったようで、舞台挨拶では、市民キャストとの共演について、函館でのロケの思い出などが語られた。

【舞台挨拶内容】
司会:まずは一言ずつご挨拶をお願いします。
竹原ピストルさん(以下、竹原):「今日は観に来てくださってほんとうにありがとうございます。宜しくお願いいたします。」
加瀬亮さん(以下、加瀬):「こういう小さな映画にたくさんの方に見に来ていただけたことを本当にうれしく思います。」
南果歩さん(以下、南):「師走のお忙しい時期にこうやって初日に劇場に来てくださってありがとうございます。どうぞゆっくり、映画を肌で感じて帰ってください。」
三浦誠己さん(以下、三浦):「映画のなかに生きる人々の息遣いとか体温を感じていただければうれしく思います。本日はありがとうございます。」
山中崇さん(以下、山中):「海炭市という町と、海炭市に住む人々をゆっくり味わっていただけたらうれしいです。」 
あがた森魚さん(以下、あがた):「喫茶店のマスター役でちょっとだけ出ております。原作者の佐藤泰志さんと1歳違いで、同じ時期に思春期を函館で過ごしました。今日は函館代表ということで来ました。宜しくお願いします。」

司会:函館市民キャストとの共演の感想や、撮影現場でのエピソードなどを教えてください。
山中:「トキ婆さん役の函館市民キャストの方とふたりで、家の中でじっくり会話をするシーンがメインだったのですが、せりふのキャッチボールで、投げてくるボールが予想がつかず面白くて、それを返すのが楽しかったです。プロの役者さんか素人さんかはあまり気になりませんでしたが、自分が予 想しない動きや考え方、せりふの言い方をするので、発見があって、ご一緒できて本当に勉強になりましたし、よかったなと思います。」
三浦:「すごく勉強になりました。観る前のお客さんに対しては、あまりこれ以上は言わないほうがいいと思います(笑)。 熊切監督は、魂の奥まで見えてしまう人だと思うので、僕は魂の奥まで一生懸命演じることをこころがけました。そこをくみとって、すごくやさしくしてくださいました。」
南:「私たちのエピソードは函館ロケの第一陣でした。本番前の一日、家のなかでみっちりとリハーサルをしました。もうカメラを回してもおかしくないなぁという雰囲気までいったのですが、翌日から撮り始めるという、すごく贅沢な時間の使い方ができた現場でした。私たちのエピソードがそろそろ終盤をむかえるころに 、加瀬さん親子のエピソードに移っていったのですが、昨日まで私たち家族につきっきりだった監督が、徐々に加瀬親子に傾いていく心の動きを察したときに、「あぁ私たちはもう終わっていく夫婦なんだ」と感じて、すごくさみしい気持ちになりました(笑)」。
加瀬:「熊切監督とは7年前の『アンテナ』以来ですが、全然変わってなかったですね。今、映画の現場でカメラの横で役者の演技を見てくれる監督というのはほとんどいないのですが、熊切監督はカメラの横でずっと芝居を見てくれていて。最初はちょっと戸惑いましたが、そういえば『アンテナ』の頃もそうだったなと思いました 。監督に応えようとして、自分の意識以外のところで体が動いていた感じがします。
地元キャストの方々との共演は、すごく楽しかったです。皆さんすごく自由に演技をされていて、その自由さに戸惑ったり、新鮮だったり、思いもよらない瞬間に出会えたり。そういう経験は緊張もしましたし、楽しかったです。」
竹原:「いつものことですが、熊切監督が現場でとても楽しそうにしていて、僕はうれしかったです。僕自身も撮影をすごく楽しめました。あとは、「映画の撮影で函館に行ってくるぜ!」と友達に言ったときにちょっと誇らしかったですね(笑)。雪が降っている季節の遠い町ということだけでワクワクしたし、函館の皆さ んの言葉のかわいらしいイントネーションを聞いているのも楽しかったです。」
あがた:「函館は映画やCMでよく使われる場所ですが、函館で実のある映画が作られたなぁと感じています。地元の人たちの自発的な発想から始まって、東京の人たちの協力があり、1本の映画が完成したというのはすごく嬉しくて高揚しています。」
ここで、体調不良のため急きょ登壇が中止となった熊切監督からの手紙が代読されました。
以下、手紙文。

「本日はご来場頂きありがとうございます。監督の熊切です。
なんと、ノロウィルスにやられてしまい、本当に残念なのですが、今日は出席する事ができません。

2年前に企画者の菅原さんからこの映画の企画を聞いた時には、「実現したら奇跡のような企画だなぁ」と思っていたのですが、それが、大勢の人の力によって形となり、こうして無事公開の日を迎えられたことを本当に嬉しく思います。

自分にとっても転機となった作品です。劇場を出た後にも海炭市の人々に思いを馳せて頂けたら、作り手として、これ以上の幸せはありません。
本日は本当にありがとうございました。」
熊切和嘉