大阪市の十三・第七藝術劇場にて行われた瀬々敬久監督と映画ライター春岡勇二さんによる『ヘヴンズ ストーリー』トークショー。後半は大きな拍手に迎えられ、山崎ハコさんと大島葉子さんが登場した。

■人間がそこにいればいい。それだけで勝負できるという映画作り

春岡;なぜ山崎ハコさんを引っ張りだそうとしたんですか?

瀬々:ファンだったんですよ。自主映画にハコさんのデビュー曲の『飛びます』を使ったくらい(笑)。

山崎:最初は主題歌、挿入歌と思いました。映画出演は『押絵と旅する男』(’94)で大道芸人の役はあったんですが、役名やセリフを頂いたのはこれが初めて。映画が大好きなので、最後に名前が出てくるなんて光栄です。
舞台の経験しかなくて、最初はこういう風に演じようとか漠然と考えていたんです。監督から初日に「演じようとしないでください」って言われて。それで何も考えず、歌手ではなく恭子なんだと思うことにしました。命をもらってこの中で生き抜こうとしただけなんです。最初の一言がよかったですね。その女として思って、動いただけです。

春岡:監督は役者・山崎ハコさんについてどう思いますか。

瀬々:演技はつけてないです。口ベタなもんで(笑)。ハコさんは歌もそうですが、存在の後ろに風景や人生が見えるところが素晴らしい。人間がそこにいればいい。それだけで勝負できる。
今度公開される熊切和嘉くんの『海炭市叙景』もまさにそんな映画。極めてプリミティブなことなんですが、人がいるだけで映画が成立する。そういったものをハコさんが存在そのものに持っていると思った訳です。

春岡:大島葉子さんは、出番は少ないけど重要で難しい役を演じられてますがいかがでしたか。

大島:私もそこにいて、感じたことを行動に出せればと思っていました。撮影の前日に私と村上淳さんにはすごく長い小説のようなFAXが送られてきまして。差し込みのシナリオですが、それがあったからわかり易かったですし、現場に自分の気持ちを持って行けばという感じでした。

春岡:監督はどの方も、その場にいてくれればっていうお考えでキャスティングされたんですか?

瀬々:基本的にはそうだけど、役者さんは個性が違うからそれぞれ伝え方は変えてますね。

春岡:役を演じる上で難しいことはなかったですか?

大島:それは感じなかったですね。多分女性だからだと思います。役をやらせていただくとき、脚本に書かれていない背景は自分で考えて演じさせていただきました。

■役者もスタッフも、解らないながらに取り組む過程をドキュメンタリーのように撮っていった

春岡:他の役者さんで面白かった方はいらっしゃいますか?

瀬々:全員いいですよ!そういう意味では(笑)。例えば、忍成修吾くんも最初は「よく解らない」って言っていたんですが、ハコさんとのシーンの中で確実に物事を掴んでいきました。
みなさん同じだったと思うんですよ。よく解らないままやって、掴んでいく。その作業を1年半。役者もスタッフも同じです。その過程をドキュメンタリーのように撮っていきました。どんどん深みに入って作り得た、そんな映画です。

春岡:山崎さんに音楽をお願いする気はなかったんですか?

瀬々:考えてなかったですね

山崎:台本を見たときに「これは大変な役なの音楽はできない」と思いました。監督の「役に取り組んでいる自分のドキュメントだと思ってください」という言葉に気持ちが一番動きました。歌はCDに残りますけど、今の姿形のまま映画に残るんだと思って。全てかなぐり捨てて素の自分を見てもらおうと。歌ってるハコとは別の、役の女と双子のようになって生きていましたね。一年間の撮影はどこか幸せでした。
36年目に入っているのに新しいことに取り組めて、急に宝がビョンって現れたようで(笑)。謙虚になりました。役者のみなさんが凄いんです。怪我もいとわず体全体で取り組む。歌手はそんなことしないもの(笑)

瀬々:皆さん、映画を観て確認してください(笑)

■答えが出なくても、やっぱり私たちは生きていく

春岡:最後に一言ずつお願いします。

大島:みんなで作り上げたこの作品に参加できたことが光栄です。今日は遅くに4時間38分の映画を観に来てくださってありがとうございました。観て感じることがあればいろんな方に宣伝していただけたら嬉しいです。

山崎:監督さんが歌のファンだったと言ってくださって、暗いと言われながらも真面目に歌ってきて、「見てくれてる人がいたんだな」「生きて来てよかったな」と思います。この映画には作りものじゃない景色が出てきて「日本にこんなところがあるんだ」「ここに私たちはいるんだ」ということに気付かされます。罪について色々考えて、それが人間だとも思うし、どうしたらいいのか中々答えは出ないけど、「やっぱり生きてるよね」「生きててよかったよね」と思えるいい映画です。誰が何と言おうと、私はこの映画を強く愛しています。ありがとうございました。

瀬々:僕はオールナイト大好きなんです。でも東京の映画館では中々出来ない。ナナゲイ、素晴らしい。この映画を年末までやってくれるから、西には足を向けて寝られません(笑)。来てくださった方々、ありがとうございました。これを広めていってください。受付には瀬々本(注)もあります。サインしますのでぜひお買い求めください(笑)!

注:10/2に発売された『瀬々敬久 映画群盗傳』(ワイズ出版)のこと

★公開情報
12月4日から第七藝術劇場、順次京都シネマ、神戸アートビレッジセンター にて公開

(Report:デューイ松田)