世界的彫刻家イサム・ノグチの母親、レオニー・ギルモアを描いた映画『レオニー』。本作のイベント試写会が10月31日角川映画試写室にて行われました。会場にはレオニー・ギルモアと同じ境遇のシングルマザーや小さな子供を連れた親子連れがみえ、NPO法人Wink理事長の新川てるえさんと松井久子監督の対談や、お客様によるQ&Aが行われました。

日時:2010/10/31
場所:角川映画試写室
登壇者:松井久子監督 
NPO法人Wink 理事長 新川てるえさん

●ご挨拶
新川さん:
こんにちは。NPO法人Winkの理事長をしている新川てるえです。Winkという団体は、一人親家庭と再婚家庭の支援をしています。私自身、離婚しているので、『レオニー』を観て、すごく勇気をもらいました。この後、皆様にもご感想をお聞きしていければと思います。

松井監督:
今日はありがとうございます。小さい子供が最後まで観ているのが信じられないです(笑)。私自身、離婚しているシングルマザーで、離婚してからは仕事一筋で頑張ってきました。実は、この映画には息子がプロデューサーとして参加してくれています。映画は心の鏡!といつも思っているので、こういう風に観てもらいたいというのをあまり出したくありません。自由に楽しんでいただけたら嬉しいですが、レオニーと共感できる点や、他の女性たちから何かを感じていただければと思います。男性監督では描くことのない、女性同士の繋がりを描きました。

新川さん:
想像力を働かせないと分からないシーンもありましたが(笑)。

松井監督:
レオニーは、子育てをしながら仕事をして…日本に来てから相当大変な思いをしてきたと思います。ですが、その部分は皆様の想像にお任せし、11年も日本にいたのだから、きっと良いこともあったはず、という思いでシナリオを書き進めました。考える必要のない映画を多く観ている人には分からないかも知れませんが、私は皆様を信じているので、想像したり考えたりできる余地を、あえて残しています。作品を観終わった後は、自由に意見交換して欲しいと思います。

新川さん:
Winkには、離婚前の女性から今後どうするべきかという相談が非常に多く寄せられます。

松井監督:
若い時にこう生きたいという考えがあったとしても、それを実現させるのは難しいと思います。負の経験を人のせいにして恨みがましく生きるよりも、前向きな生き方をして欲しいですね。私も、離婚するまでは依存性が強く、女性はこうあるべきという考えに縛られていましたが、離婚した後は、自分できちんと考えて判断してきました。その分大変でしたが気持ち良いですよ。レオニーは個性が強く、医学の道に進もうとしている息子に、あなたは芸術家だ!!と言い切ってしまいます。そこまではするのは難しいかも知れませんが、我が子の資質を見抜くのは親の役割かもしれないなと思いました。

新川さん:
素直にレオニーの意見を受け入れたイサム・ノグチさんもすごいですね。

松井監督:
本当に医学の道に進みたいとは思っていなかったのかもしれません。里親への想いとか…。
これは映画では描いていませんが、実際にイサム・ノグチさんがコロンビア大学にいたころ、野口英世さんに相談したことがあったみたいですよ。芸術の道に進むのと医学の道に進むのと、どちらが人生の真実を学ぶことが出来るのか、ということを。野口英世さんからは、芸術家だよ!と言われたそうです(笑)。

新川さん:
レオニーの老いた姿を表現した特殊メイクも非常に素晴らしいと感じました。

松井監督:
アメリカの有名なチームの一人にメイクしていただきました。5時間も掛かるんですよ!女優さんは不思議で、メイクとはいえ自分の老いた姿を見るのは嫌みたいでしたね(笑)。自分の母親に似ている!と言って、気持ちが落ち込んでしまっていました。アメリカでは、やはり特殊メイクやVFXなどの技術が進んでいて、すごく丁寧で自然な仕上がりだと思います。

新川さん:
「死ぬ時に幸せが分かる
という表現の台詞がありますが…。

松井監督:
私が人生で思っていることです。死ぬ時によく生きたな、と思うことができるよう生きていきたいと思っています。

●会場にいらっしゃるシングルマザーの方やお子様連れの方から松井監督へQ&Aが行われました。

Q:作品中に色々な芸術作品が出てきますが、そこにはどのような意味が込められているのですか?

松井監督:
私の趣味です(笑)。特に深い意味はありませんが、映画を作る過程で一番楽しいのはそういう所だと思います。レオニーが簪で髪をとめていたり…ということを5回くらい観ると分かります。モエレ沼公園に行った時も、レオニーがこれを見たらどんなに素晴らしいと思うだろうと思い、ラストのシーンに決めました。この映画を作ろうと決めてからすぐに、アメリカのイサム・ノグチ財団に協力をお願いしましたがなかなか協力していただけなくて…。最後だけ、モエレ沼公園を出させていただきました。一番残念だったのは、イサム・ノグチの個展のシーンで作品を出せなかったことですね。

Q:日米合作で大変だったこと、嬉しかったことは何ですか?

松井監督:
大変だったのは資金集めです(笑)。節約に節約を重ねましたが、13億円というお金が掛かっています。文化も薄れていて、映画も商売道具になってしまっている今、儲かることを目的としない、こういう映画があるべきでは!?と6年言い続けてきた結果、幸運なことに作品を完成させることができました。周りから反対されればされるほど闘志が湧いてきたので…。使命感もありましたね。自分で自分の可能性を狭めることだけはして欲しくないと思います。嬉しかったのは、7年掛かってやっと映画が完成して…。英語もほとんどしゃべれない私が、世界中の国の人たちと一緒に仕事が出来たことです。

Q:松井監督がシングルマザーの時代に支えられた人はどんな方ですか?

松井監督:
友達にも、仕事仲間にも、本当に色々な人に支えられました。息子からはひどいことも言われましたが、それは親子だからこそ言えることであって、当然のことですよね。そういうことが言える関係は素敵だと思いますし、母親と子供というのは何があっても切れることは無いと思います。私は、血の繋がり以上に本当に色々な人に支えられましたし、すごく感謝しています。

Q:中村獅童さんはすごくはまり役だと思いました。キャスティングはどのように決められましたか?

松井監督:
この作品を作ろうと決めて、時が経つにつれ中村獅童さんが良い!と思うようになり、シナリオも彼を思い浮かべながら書き進めました。彼は、着物を着ても洋服を着ても様になる上、東洋のエキゾチックな魅力に溢れていますから。

Q:レオニーにすごく共感できました。レオニーの友人であるキャサリンとレオニーだったら、どちらが幸せなのかなと考えてしまいましたが…。

松井監督:
比べなくて良いと思います。自分で選択した状況に喜びを感じて欲しいです。それぞれの道で生きていければ良いと思いますし、選択した結果に満足できないのであれば変えていけば良いですから。

Q:息子さんと一緒のお仕事はいかがでしたか?

松井監督:
ちょっとしたことでむっとしてしまうのが分かってしまうので、大変でした(笑)。ただ、一緒に仕事をしていて、関係性が親子から対等な立場へと変わっていきましたね。強く意識はしていませんでしたが、一つの仕事を成し遂げたというのを分かち合いたくて、この作品を選んだのかもしれません。

Q:作中で登場する着物についてお聞かせ下さい。

松井監督:
レオニーが初めて日本に来て出掛けていくのが日本橋という設定なので、そこの呉服屋さんで…と思っていました。それで思いついたのが竺仙さんだったので、そこに行って実際に私が選びました。竺仙のご主人にも試写に来て頂いて、作品に出ている着物を見て電流が走ったような不思議な気持ちになったという感想をいただきました。イサム・ノグチさんも竺仙の着物が好きだったようで、以前に来店されたことがあったみたいです。イサム・ノグチさんがデザインされた着物のファッションショーも行われたみたいですよ!

●作品や女性の生き方について熱く語った松井監督から、最後に皆様へメッセージをいただきました。

松井監督:
今日は長い間ありがとうございました。女は強いから大丈夫!頑張って下さい!!