9 月25 日(土)、『感染列島』などで知られる瀬々敬久監督の最新作『ヘヴンズ ストーリー』の映画学生限定試写会が日本大学芸術学部において開催され、首都圏10の映画学科・専門学校生約100名が参加した。

当初は、鬼才で知られる瀬々監督だけに、上映後ティーチインはガチンコの大激論が展開されるかと思いきや、映画に出演している女優・菜葉菜の参加で場内が和んだためか、はたまた映画の圧倒的な迫力のせいか、ティーチインは、映画から何かを学び取ろうとする学生たちと若い人たちに映画を見て欲しいという監督、菜葉菜の誠実な姿勢に、激論というよりは、さながら全員が真剣に映画を語る“喋り場”的なムードになった。

映画の絵作りについて、泣く・走る・怒るといったテンションの高いシーンの演出について、ロケについて、学生たちから積極的な質問が相次ぎ、中でも印象的だったのは、キャスティングの基準に、「普段の日常を引きずってきてくれる人とやりたい」という瀬々監督の回答。生きている中で一番大事なのは特別な出来事ではなく、日常の中にあるもので、その瞬間を撮る為に役者にもそれを求め、普段の日常を切り離し、役が乗り移ったような演技を求めるのではなく、役と本人の隙間に生々しいものが入り込むのが好きだという監督の言葉に学生たちは深く頷いていた。そんなキャスティングによって「タエ」役を演じた菜葉菜は、監督との初対面で、いきなり「他人から嫌われるのがイヤなんでしょ」とキツイ事を言われて悔し泣きをし、さらに現場ではカットがかかるはずのところでカットをかけてもらえず延々の放置プレイ、撮影時は瀬々監督が大嫌いだったと告白。けれど、それが監督の演出プランであったことを知った今では、これまで仕事をした監督の中で一番瀬々さんが好きと発言し、監督を照れさせたりする一場面も。

かつて映画美学校で講師をしていた経験もある瀬々監督は、『ヘヴンズ ストーリー』に多くの教え子が参加していることを明かし、会場を埋めた未来の映画作家達に、自身が映画を作り続ける理由を「映画をつくることで世界の秘密に触れられるのではないかという思い」と説明し、「映画にはまだまだ未来があると思うので、ぜひ、どういった形であれこれからも映画にかかわっていって、映画人生を全うしてほしい」と熱く語りかた。試写会に参加した学生たちは「4 時間38 分と聞いて最初はびびったけど、ちっとも長さを感じなかった」「映画の力に圧倒された」「監督たちともじっくり話せてすごく貴重な機会だった」「バイトをキャンセルして参加して良かった」と口々に感動した様子。ティーチイン終了後は、監督、菜葉菜を囲んで記念撮影も行われ、非常に満足したイベントとなったようだ。