日本で生まれ育ち、黒澤明作品、宮崎駿作品をはじめ多くの邦画の英語字幕を手掛けてきたリンダ・ホーグランドの初監督作品『ANPO』。
『ANPO』は日本の基地問題が緊迫する現在、60年安保を知るアーティストの作品と証言を通して、日米の狭間で育まれた独自の視点から、日米関係の問い直しを迫るドキュメンタリー。
公開を記念し9月20日渋谷アップリンク・ファクトリーで行われた今回のトークショーでは、ホーグランド監督が映画制作の際の助言者として信頼を寄せる阪本順治監督をゲストに迎え、安保について考え始めたきっかけなどを語った。

ホーグランド監督は、この作品を作った動機について、
「映画の字幕付けの仕事を始めた時に、60年という年が映画に影響をもたらしているということに気が付いた。59年に、『にあんちゃん』というお金はないけれど幸せな家族の話を撮った今村昌平監督が、
61年には、『豚と軍艦』という横須賀を舞台にしたブラックな作品を撮っている。
政治的な作品が少ない黒澤明監督でさえ、『悪い奴ほどよく眠る』という現代社会の闇
を映し出した作品を60年に制作したことを知り、一体その時何があったんだ?と
思ったのが安保について考える入り口だった」と述べた。

また、阪本監督は映画『ANPO』について、
「歴史として安保は知っていたものの、その安保にアートを通じて
触れる手法を用いたリンダ監督にはショックを受けた。
ドキュメンタリーは、いまその問題に直面している人の証言や生活を取り上げて構成されるものが多いが、
絵画や写真のような静止したアートを通してエモーショナルな映画を作る手法に、
そんな作品は撮ろうとも思ったことがないのに、見終わって嫉妬した。
社会的なテーマ性の高い映画は構成力や編集の力量が問われ、アプローチを間違うと
失敗するが、そうではない映画が完成したと思う」と高く評価した。
続けて「編集中のラッシュを見た時、作り手の立場を棚に上げて『15分で客の心を掴め!』と偉そうに助言したけれど、自分が心を掴まれてた。自分の作品は最後まで心を掴めないものもあるのに……」と制作段階からこの作品を見続けてきた阪本氏ならではの感想を、笑いながら披露した。