日本で生まれ育ち、黒澤明作品、宮崎駿作品をはじめ多くの邦画の英語字幕を手掛けてきたリンダ・ホーグランドの初監督作品『ANPO』が本日9月18日より公開。ホーグランド監督が、東京での上映館となる渋谷アップリンクで、本作に出演する舞台美術家の朝倉摂さん、そして『1960年6月安保への怒り』(1960年)で安保闘争の運動を描いた映画監督の富沢幸男さんを迎えトークショーを行いました。

『ANPO』は日本の基地問題が緊迫する現在、60年安保を知るアーティストの作品と証言を通して、日米の狭間で育まれた独自の視点から、日米関係の問い直しを迫るドキュメンタリー。今回のトークショーでは安保闘争に実際に参加した朝倉さん、そしてドキュメンタリー『1960年6月安保への怒り』(1960年)で60年安保闘争の運動の模様を記録した富沢監督とともに、当時のエピソードやそれぞれの表現に対する熱意が語られました。

まずトロント映画祭のワールド・プレミア上映参加後帰国したホーグランド監督が観客からの「展覧会はいつ開く予定ですか?実際に絵画を見るのが待ち遠しいです」という反応を受け、「日本のアートが欧米の人に鮮明に伝わったことがなにより嬉しかった」という現地の反響を報告の後、トークショーがスタート。

当時、生まれたばかりの子どもを放りだして安保運動に熱を入れていたという朝倉さんは、本作で取り上げられている自身の作品『黒人歌手ポール・ロブソン』(1959年)について、ウィーンで開催された世界平和友好祭で彼に会った時のエピソードを披露。「誰かにマイクを切られたにも関わらず、一生懸命歌った姿に感動して、舞台に上がって握手をしたんです。私の3倍くらいあるすごい大きな手で、そのとき『彼の絵を描きたい』と思った。それで紙切れにちょっと描いて、バッグの中に入れたんです」と述懐しました。
またホーグランド監督は、ポール・ロブソンの絵をこの映画に入れたかった理由として「日本人が安保について映画を作ろうとしたら、逆さになってもポール・ロブソンは出てこない。朝倉さんがアメリカ人だった彼の歌に抵抗の精神をみて、そこにインスパイアされたというところに感動した。私が作った映画は、アメリカとか日本という国を超越したアーティスト同士のインスピレーションがどういうかたちで残るかを表現するためのもの。この作品に出てくる映画やアート作品を私は〈文化遺産〉という表現をしていますが、こんな世界レベルのアートが世界に知られないのはもったいない。外国の人たちに向けて、いろんなかたちでアートを発信している人たちがいるんだということを紹介したかった」と再度力説しました。

そして富沢さんは、この映画でも繰り返し描かれる日本のアメリカに対する愛憎入り交じる複雑な感情について、「日本は政治ひとつ考えても60年安保から70年安保に至る間でものすごく変わった。その後にはベトナム戦争とイラク戦争という大きな戦争が横たわっていて、安保についてリンダさんが今回やったような方法で解き明かすことはもうできないくらい、大きな問題が持ち出されてしまっている。そういうときに、日本人である我々はなにを考えるかをやっぱり突き詰めていかなきゃならないと思う」と語り、今作で描かれている問題が現代での日米関係に対しても有効であることを示唆しました。

映画『ANPO』上映館では引き続き関連イベントを開催。
20日(祝・月)には『この世の外へ
クラブ進駐軍』(2004年)で終戦後の日米関係を描いた映画監督の阪本順治さんが登壇し、ホーグランド監督とトークショーを繰り広げることになっています。

東京イベント開催概要
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日時:9/20(月・祝)19:30〜 上映終了後
会場:渋谷アップリンク
ゲスト:阪本順治(映画監督)×リンダ・ホーグランド監督 トークショー
料金:一律¥1,500 (割引と特別鑑賞券は当イベントではお使いいただけません。)

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