W杯南ア大会で大役を務めた主審の西村雄一さんと副審の相樂亨さんによる、
審判の立場から見たサッカーの醍醐味

9月12日(日)、サッカーFIFAワールドカップ2010南アフリカ大会に出場し、日本人審判として史上初めてワールドカップ決勝戦のピッチに立った国際主審の西村雄一さん、国際副審の相樂亨さんによるトークイベントが渋谷アップリンク・ファクトリーで行われました。

このイベントは現在公開中である、サッカーを審判の側から描いた画期的なドキュメンタリー『レフェリー 知られざるサッカーの舞台裏』上映記念として行われたもので、西村さんと相樂さんは司会を務めたお笑いタレントの平畠啓史さんとともに、南ア大会でのとっておきのエピソードを会場につめかけた多数の観客に披露しました。

映画の上映の後、審判団に寄贈されたマッチボールや、決勝戦を担当したレフェリーに用意されたメダル、実際にピッチで使われたレッドカードやイエローカード、主審のレシーバーと連動する線審の旗など貴重な品々とともに登場した西村さんは最初に「正しい判定ができて良かったと日に日に思う」と大会を終えての率直な感慨を語りました。またファンと一緒に映画本編を観た感想として「いや、ほんとうにレフェリーって大変ですよね」と、審判の大変さが赤裸々に描写されていることを指摘。相樂さんも本編で描写されているレシーバーによりレフェリー同士でコミュニケーションを計りチームプレーを行う場面を例に挙げ「まさにこんな感じ、というシーンばかりで、我々にとっては特別ではない」と述べました。

今回の南アフリカ大会では、とりわけ審判の誤審や疑惑の判定について様々な議論を呼びましたが、「同じような状況が起こっても同じように正しく判定できなかったかもしれないという気持ちはいつも持っている。一生懸命我々は努力しているけれど、運も必要で、一瞬にして3つや4つのプレーが行われるときには見られないこともある」(西村)、「あの(問題の)試合に当たっていたら、同じ状況に遭って、おそらくこういうイベントに呼ばれることはなかったでしょう(笑)」(相樂)と、自らのことのように痛切に感じていたことを告白。

また映画で取り上げられている、ひとつの判定が国同士の問題にまで発展しかねないヨーロッパの状況については、「ジャッジに対する議論も対戦国同士の歴史として、未来永劫語り続けていく、それを含めて楽しんでもらうのがフットボールの醍醐味だと思っています。特にヨーロッパは審判と判定に対する文化的なレベルの高さを感じる」(西村)とも。

相樂さんは実際にピッチを共にした優勝国チームに対し、「スペインはオフサイドが難しい。フェルナンド・トーレスと思ってずっと見ていると、シャビが出てきたり、ダビド・ビジャが出てきたり、中盤が周りを見てパスを回せている。だから気が抜けないというより、少し余裕をもたなくちゃいけない。線審は一点集中したら、他のものが見えなくなってしまうから、集中してはだめなんですよ」と、副審ならではの視点で分析。それに対し西村さんは主審の目線により「ひとつのパスが出たときに、ボールに合わせて動くのではなく、4つパスを回す間に両サイドがうまくあがってきて5本目に効果的なパスを出す、と予測しながら見るようにする。スペインはやろうとしている戦術がほんとうに高い技術で行われるので、出るパスと出ないパスが解るし、ミスパスもないから、ある意味先を読みやすいんです」と、スペインの組織力の高さを表現しました。

さらにスペインがレフェリーのジャッジを受け入れ、判定に左右されず自分たちの素晴らしいプレーをすることで勝ち上がってきたことを強調。「スペインは今回フェアプレー賞を獲って優勝していますが、彼らの審判へのリスペクトとマナーの良さは素晴らしかった。例えば中盤でファウルをしても、カルレス・プジョルが最終ラインからあがってきて『レフェリー、グッドジャッジ!』と自分たちのファウルでも言ってきてくれる。そういうことはゲーム中あまりないんです」と まさにピッチに立ってレフェリーをしていないと解らないエピソードを語り、再度スペインチームを評価しました。

最後に世紀の大会に栄誉ある出場を果たしたおふたりは、最近とみに注目の集まる審判というポジションからのメッセージとして、「すべてのレフェリーが正しく判定しようと思ってやっています。今はみなさん懐疑的な部分があるかもしれないけれど、審判の判定はほとんど合っていると思って試合を見ていただくと、プレーヤーはもっとファウルにならないようがんばれという気持ちになっていく。そうすることでもっとたくましいプレーヤーが増えていったら、今度は代表選手がメダルを持ち帰ってくれると信じています」と西村さんが話すと、相樂さんも「ヨーロッパではプレーヤーが簡単に倒れるときに、審判に非難がいくのではなく、サポーターが選手にブーイングを浴びせるシーンを体験しますが、そういう見方をしてもらうことで、間違いなく日本のサッカーは強くなると思います」と、見ている側の眼や態度から、日本のサッカーが成長することができると語り、トークを締めくくりました。

映画『レフェリー 知られざるサッカーの舞台裏』は渋谷アップリンク・ファクトリーにて好評上映中です。