映画祭最終日の23日(日)。5月12日から12日間にわたって開催された第63回カンヌ国際映画祭が閉幕した。怒濤の日々も過ぎてしまえば、あっという間で、19時15分から始まったクロージング・セレモニーではコンペティション部門の授賞式が行われ、それに引き続き、閉幕作品『ツリー』が上映された。

◆クリスティン・スコット・トーマスが司会を務め、華やかな顔ぶれのプレゼンターたちが登場したクロージング・セレモニー!

 オープニング・セレモニーに続き、クロージング・セレモニーの司会を務めた英国出身の女優クリスティン・スコット・トーマスのジャファール・パナヒ監督のイラン政府による不当逮捕撤回を訴える挨拶で始まった今年の授賞式。人気スターたちがプレゼンターとして続々と登壇した。
 短編コンペティション部門のプレゼンターはアメリカの女優ミシェル・ロドリゲスで、この部門の審査委員長であるアトム・エゴヤン監督とともに登壇。24作品が審査対象となり、審査委員長をメキシコの人気スター、ガエル・ガルシア・ベルナルが務めたカメラドール(新人監督賞)のプレセンターとして登場したのはフランスの女優エマニュエル・ベアール。脚本賞のプレゼンターは仏女優エマニュエル・ドゥヴォス。審査員賞は伊女優アーシア・アルジェント。元夫婦のギョーム・カネとダイアン・クルーガーがそれぞれ女優賞と男優賞のプレゼンターとして相次いで登壇したのには少々ビックリ! 
 監督賞のプレゼンターは監督した短編作品『バスタード』が“批評家週間”で上映されたハリウッドの人気スター、キルスティン・ダンスト。グランプリのプレゼンターはフランス人実業家と結婚した女優サルマ・ハエック。そして最高賞パルムドールのプレゼンターは、クロージング作品『ツリー』の主演女優シャルロット・ゲンズブールが務めている。
 我々プレスは、その模様を授賞式会場のリュミエールではなく、別会場ドビュッシーのスクリーンで観るので、賞が発表される度に気兼ねなく歓声をあげたり、ブーイングしたりと喧しいのだが、ブーイングの嵐が吹き荒れた昨年に比べると、今年の反応はかなり穏やかで、大穴的存在だったタイ映画がパルムドールだと発表された時に多少どよめいた程度。ドビュッシーの会場が一番沸いたのは、賞の行方(意外だったのは下馬評で一番人気だったマイク・リー監督の『アナザー・イヤー』が受賞を逃したことぐらい)ではなく、男優賞を受賞したハビエル・バルデムが客席にいた恋人ペネロペ・クルスにスペイン語で謝辞と愛の言葉を述べた時であった。
 今年も授賞式直後の20時15分から審査員および受賞者の記者会見が行われるので、取材する報道陣は直ぐさま記者会見場にダッシュ!

◆パルムドールに輝いたのは、21日(金)に上映されたアピチャッポン・ウィーラセタクン監督の『ブンミおじさん』

 アピチャッポン・ウィーラセタクン監督は、2004年の『トロピカル・マラディ』がカンヌのコンペティション部門の審査員賞を受賞したタイの気鋭映像作家。『ブンミおじさん』は自身の短編『ブンミおじさんへの手紙』(2009年)を長編化。監督の故郷コンケーンの仏僧が書いた本に着想を得た作品で、輪廻転生を信じ、生まれる前のことを覚えているという余命幾ばくもない病床の男、ブンミおじさんを巡ってスーパーナチュラルに傾倒した寓話的な物語(幽霊や全身頭髪に覆われた怪物と化した青年、言葉を話すナマズと水中で愛を交わす女などが登場!)が美しいタイの田舎の風景の中で展開していく。
 授賞式でウィーラセタクン監督は、「この賞は私が映画とは何かを少しは学べたという証です」と述べ、多くの人々への感謝とともに喜びのコメント。授賞式後の受賞者会見では、「受賞はタイの精霊と幽霊、そして30年前に小さな映画館に連れていってくれた両親のおかげ」と語った。
 受賞者会見に先立つ審査員会見で、審査委員長ティム・バートンは『ブンミおじさん』を評価した理由を「今までに観たことがない映画で、驚かされた」ことだと語った。

◆次点のグランプリは、実話の映画化で下馬評の高かったフランス映画『オブ・ゴッド・アンド・メン』が受賞!

『オブ・ゴッド・アンド・メン』の監督グサヴィエ・ボーヴォワは、日本では『ポネット』の父親役の俳優として知られているが、アンドレ・テシネやマノエル・ド・オリヴェイラの助監督を務めた経験もある俊英監督で、1995年の『N’oublie pas que tu vas mourir』でカンヌの審査員賞を受賞。15年ぶりのカンヌ挑戦となった監督5作目で見事にグランプリを獲得(ちなみに2001年には、監督3作目の『マチューの受難』(2000年製作)を携え、“第9回フランス映画祭 横浜”に主演俳優ブノワ・マジメル&ナタリー・バイとともに来日)している。
 『オブ・ゴッド・アンド・メン』は、1996年3月に、北アフリカのアルジェリアで起きたイスラム武装集団(GIA)によるトラピスト会フランス人修道士7人の拉致および殺害事件を映画化、静謐で美しい映像で描いた秀作(18日朝のプレス試写では大きな拍手が起きた)で、出演はランベール・ウィルソン、ミシェル・ロンズデール、オリヴィエ・ラブルダン、ロシュディ・ゼムら。終盤、危険が迫っていることを知りつつもアルジェリアに留まる決意を下した修道士たちがテーブルを囲んで、チャイコフスキーの「白鳥の湖」を聴くシーンが実に印象的な作品であった。
 本作の修道士役で新境地を開拓、美声も披露したランベール・ウィルソンは、16日に上映された名匠ベルトラン・タヴェルニエ監督のコンペ作『モンパンシェのプリンセス』でも好演しており、男優賞の筆頭候補に挙がっていたが、受賞にはいたらなかった。

◆監督賞は『潜水服は蝶の夢を見る』『007 慰めの報酬』等で知られる実力派俳優マチュー・アマルリックが長編監督4作目で受賞!

 カンヌ国際映画祭便り2で既にお伝えした通り、『オン・ツアー』は、フランスの人気俳優マチュー・アマルリックが主演を兼ねて監督した作品で、アメリカのニューバーレスク界の第一線で活躍するセクシーなストリップ・ダンサーたちが出演。彼女たちのフランス巡業の旅をリアルに描写した哀切感漂うロード・ムービーに仕上げて魅せたマチュー・アマルリック監督は、ストリップ・ダンサーたちを授賞式の壇上に呼び上げ、「映画を作ったのは彼女たち。私たちスタッフはそれを支えただけです」と述べ、「僕が助監督など裏方で勉強していたことを知っている審査員もいたのでしょう。感謝します」と受賞の喜びを語った。
(記事構成:Y. KIKKA)