映画祭6日目の17日(月)。“コンペティション”部門では、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の『ビューティフル』と北野武監督の『アウトレイジ』が、“ある視点”部門では、ジャン・リュック・ゴダール監督の『フィルム・ソーシャリズム』が正式上映。

◆17日、11時15分から行われた『ビューティフル』の公式記者会見にアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督とハビエル・バルデムが登壇

 2000年の『アモーレス・ペロス』で“批評家週間”部門のグランプリに輝き、2006年の『バベル』で“コンペティション”部門の監督賞を受賞するなど、カンヌ映画祭に馴染みがあり、世界的にも評価が高いメキシコの鬼才アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督だが、今回の『ビューティフル』では、これまで組んできた名脚本家ギジェルモ・アリアガ(2005年の『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』でカンヌ映画祭脚本賞を受賞し、『あの日、欲望の大地で』で監督業に進出)と決別。国際的に活躍するスペイン人俳優ハビエル・バルデムを主演に迎えて描いた意欲作でコンペに参戦してきた。
『ビューティフル』は、バルセロナの裏社会で闇ブローカー(中国人不法移民を働かせる工場の経営者や、偽ブランドのバッグを路上で売るアフリカ人たちの元締めと繋がり、警察に手渡す賄賂などの交渉役)を生業とし、治療不可能な末期ガンと診断され男の残された日々の生き様を別れた愛人や自分の子供の関係とともに描いた物語。冒頭に、雪に覆われた林の謎めいたシーンがあるのだが、その意味が明かされるラストシーンが印象的だった。原題の『Biutiful』は、幼い子供に“美しい”という単語の綴り方を聞かれた主人公が教える誤ったスペリングを・wしている。

◆2008年に『ノーカントリー』でアカデミー賞助演男優賞を獲得したハビエル・バルデムが主人公を熱演!

 スペイン人俳優として初のアカデミー賞に輝いた演技派のハビエル・バルデムは公式記者会見で、自分が演じた主人公について「この作品のイメージが凝縮された役柄だと思う。彼は感情を表に出さない男なんだが、過去に収賄や搾取などの暗い履歴があることをしっかり匂わせるように努力した。彼は健全さの最後の証である愛を失いたくなく、努力もするんだが、運命は彼を別の方向へと押しやってしまうんだ」とコメント。
 一方のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督は、本作の構想について「前作『バベル』で世界中を駆け巡り、疲れ果ててしまった。なので、新作はひとつの場所を舞台にして、1人の登場人物を中心に物語が展開する、よりシンプルな作品を撮ろうと自分に言い聞かせていた。この映画は前とは違う方法でストーリーを語りながら、より単調で統制のとれた作品にしたかったんだ」と語り、さらには「たとえ映画全体が暗いイメージに覆われていても、この映画には希望のかけらが多く詰まっている。自分の作品のなかで、最も楽観的な内容であると言えるんだ。主人公には希望があり、自分の人生を整理しながらも子供を慈しみ、他人を愛することに全力を尽くす。インターネットやソーシャルネットワークが席巻する今、親密なふれあいというものが我々の社会の新しいパンクムーブメントになるんだよ」と力強くコメント。
(記事構成:Y. KIKKA)