本日、山田洋次監督10年ぶりの現代劇である最新作『おとうと』の完成報告会見が行われました。会場には約250人のマスコミが集まり、熱気にあふれた会見となりました。

◆『おとうと』完成報告会見
【日程】
11月9日(月)
【時間】
12時20分開場 / 13時00分開映
【場所】
ザ・プリンス パークタワー東京 コンベンションホール
(港区芝公園4-8-1)
【登壇者】
吉永小百合、笑福亭鶴瓶、蒼井優、山田洋次監督

【登壇者より、一言ずつご挨拶】

山田洋次監督:
この映画を作りながら、「私が育ったのは、ホームドラマを作る伝統をもった大船撮影所だったのだな」とつくづく感じていました。

僕が若い時は、「何と言ったって黒澤明監督で、小津安二郎なんて古臭」いと若者らしく思っていたものなのですが、自分が監督として年月を経るごとに、小津監督という人の偉大さがわかってきて、『おとうと』を始める前にも小津さんのいろいろな作品を見直してみました。
ですから、この作品は市川崑監督と小津監督に捧げようと思っております。

また、この家族の物語は、このキャストがいたからできたんだと思っています。よろしくお願いいたします。

吉永小百合:
今日はお忙しいところお越し頂き本当にありがとうございます。
「こんな弟がいたら、私自身はどんな風に受け止めるだろう」と考えながら、吟子という役を演じました。このお姉さんは真面目でしっかりしている人なのですが、弟がこんな風になってしまった時に、私だったらここまで支えてあげられなかったかもしれないと思いました。

また鶴瓶さんが壮絶なダイエットをなさって、日に日にやせていらっしゃるのを見ていて胸が苦しくなる思いで、そういう思いが芝居ではなく自然に出せたかもしれないと思っております。私にとってとても大切な作品になりました。大勢の皆様に見ていただきたいと願っております。

笑福亭鶴瓶:
たくさん来ていただいてありがとうございます。
この作品に出会えて本当に嬉しかったです。僕が演じた鉄郎は、救いようのない男なのですが、吉永さん、蒼井さん、石田(ゆり子)さんに看取られながら死んでいくんです。
むちゃくちゃな男が一番幸せな死に方をするんです。

僕は2か月で15キロやせたんですが、痩せるのがすごく楽しかったです。
その間に吉永さんが大根スープとかいろいろもってきてくださったんですが、最後には「もうやせないで。私が太るから」と言われて、ほんまに幸せでした。「死んでも良いわ」と思いました。

周りの人、タモリさんとか西田さんに怒られるんですよ。
この記者会見を見てもみんな怒ると思います(笑)。
もういっぺんクランクインしたいなと思います。幸せな作品に出られて、本当に幸せです。

蒼井優:
皆様、お忙しい中、お越し頂き本当にありがとうございます。
私は山田監督の映画に出るのがずっと夢だったので、今回お声をかけて頂いて本当に嬉しかったです。現場に入っても、あんなに監督を中心とした輪が強い現場は初めてでした。だからこそ『おとうと』という作品に深みが増していくのだなという気がしました。
その一員として自分がいられたということ、こんなに幸せなことはないと思います。ぜひ現場の温かさを劇場に来てくださった皆さんにも感じていただけたらと思っていますので、よろしくお願いします。

【質疑応答】

●山田監督へ:キャスティングについて。めちゃくちゃな弟という役を、なぜ鶴瓶さんへオファーされたのでしょうか?

山田監督:
鉄郎というのは、救いのない男、本当にダメなやつです。
でも、もう一つ高い立場から考えれば、彼も迷える子羊で、救われなければならない人間の一人です。色々な理由でまっとうな生き方ができなかったけれども、それは決して彼の罪ではない。鉄郎を演じる人は、そういう部分を、きちんと体全体で表現できる人でなければならないと思っていました。
前々から鶴瓶さんに興味があったのですが、『おとうと』のことを考えた時に、すぐに鶴瓶さんの顔が浮かび、彼ならそういうキャラクター、どうしようもないんだけれども、本当は許されなければならない人間を表現できるだろうなと思いました。

●吉永さんへ:鶴瓶さんとは『母べえ』以来の共演となりますが、今回、鶴瓶さんと再共演されて、意外な面というのはありましたでしょうか?

吉永:
鶴瓶さんは裏表がない方で、ほんわかした優しい方なんです。
ただダイエットをされている時に「まだやせ方が足りない」と言って、ボクシングを9ラウンドやられたという話を聞いて、「もうやめて!死んでしまう!」と思いました。そんな激しい一面も持っていらっしゃる方なのだろうなと思いました。

鶴瓶:
どんどん「大丈夫?」と心配してもらいたくてやりました(笑)。
吉永さんが病院のシーンで足をずっとさすってくれるんですよ。すごい嬉しいですよね。吉永小百合が足をさすってくれるんですよ(笑)!?
吉永さんから僕の家に電話もかかってくるんですよ。メールも来るんですよ!だから、留守電もメールも全部残してます。本当に楽しい現場でした。

●吉永さんは弟のイメージを膨らませるために、鶴瓶さんのちっちゃい頃の写真をお持ちになってらしたと伺ったのですが…

吉永:
鶴瓶さんにお願いして写真を頂いて、台本の中に挟んでいました。
鶴瓶さんと一緒ではないシーンでは、その写真を見て、「この弟を育ててきたんだな」ということを思っていました。

鶴瓶:
吉永さんのすごいところは、薬局でのロケがあったんですが、電車に乗って下見に行ってらっしゃるんですよ。吉永さんにしてみれば当たり前なのかもしれないですが、すごいなあと思いました。

●キャストの皆さんへ:家族に対する思いを聞かせて頂けますでしょうか。

鶴瓶:
僕は昨日、独演会が終わったんですが、その時は姉が来てくれたり、この作品の撮影には次女が来てくれたりしました。良い家に育ったなと思いますね。親父やおふくろがちゃんと育ててくれたから、自分で言うのも何ですが、人懐っこい人間に育ったんだと思います。

吉永:
私はとてつもなく強い母と、やさしい父に育てられました。当時は、そんな2人に反抗して家を出てみたりしたこともありますが、2人がいなくなった今、父母のことをもっともっと知りたかったという思いがあり、その思いはずっと続くだろうと思っています。

蒼井:
私にとって家族は、存在そのものが当たり前すぎて、たまに感謝の気持ちも忘れてしまう時があると思います。結局、最後には家族に甘えてしまうんですね。一番素直でいられる反面、それが良いところでもあり、悪いところでもあると思いますし、気をつけないといけないなと思います。

●山田監督へ:破天荒な鉄郎の性格と、顔を見るとどんなことも許してしまうというところから、寅さんの雰囲気を感じたのですが、この作品を作るにあたって、寅さんのことを思い出されたことがあったのでしょうか。

山田監督:
どんな幸せそうな家族でも、親戚や遠縁に、人には言いたくない、ちょっと困った人というのはいるものなのです。寅さんを作る時には、寅さんはそういう男なんだと思っていました。そういう人を含めて家族というものがあるんだと思っています。今回も同じです。
1人困ったおじさんがいるんだという、そういう形は、寅さんが兄と妹で、『おとうと』は姉と弟という違いはありますが、関係が似ているんだなと自分でもはっきり思いながら作っていました。

●吉永さんへ:監督から、松竹大船調という話がありましたが、吉永さんは今回演じられる上で、小津監督・松竹大船調に対する思いはあったのでしょうか?

吉永:
この映画に出演する前に、小津さんの作品を何作品か見て、「これが小津安二郎さんの世界なんだ」ということをしみじみ感じました。

私はデビューが『朝を呼ぶ口笛』という作品なのですが、その撮影が大船撮影所で、その時に大船撮影所の素晴らしさを感じていました。
皆が家族みたいでしたし、ああいう雰囲気の中で、伝統的な松竹の家族をテーマにした作品が生まれてきたんだなという気がしました。

今、大船撮影所で『おとうと』が作れないのは非常に残念ですが、そういう思いを山田監督が受け継いで、これからも作品を作られていくのだと思いますし、その作品の一員になれたということを、非常に嬉しく思っております。