「ロード、ムービー」の監督をお迎えし、記者会見が行なわれました。

■日時・場所 10月22日(木) 15:15 @ムービーカフェ
■登壇者 デーヴ・ベネガル(監督)、フレッド・ベルガー(共同プロデューサー)

親から逃げるように家を飛び出した青年が運転するトラックにはフィルムの映写機が…。奇妙な仲間を連れて、映画の旅が始まる。リリシズムとユーモアを兼ね備えた息を呑むような映像美と映画への愛があふれるデーウ・ベネガル監督の実に10 年振りの長編となる新作。
まずは、10 年ぶりの長編で10 年ぶりに来日されたベネガル監督に久しぶりの東京の印象、そして、共同プロデューサーのベルガーさんとこの作品の制作に至ったエピソードについてお話しいただきました。

監督: 10 年前私の作品を上映した後、まだ劇場の照明が暗い内から、私の映画を称賛してくださる声があがりました。その自発的なリアクションが大変ありがたく、後にそれがロス・カッツだということを知りました。以来親交を深めていまして、いずれ一緒に映画を作ろうという話をしていましたが、私が怠け者であるということもあって、なかなか実現に至りませんでした。『ロード、ムービー』を書き終えた頃、カンヌでフレッドとロスに会いました。『ロード、ムービー』の話をすると、是非一緒にやりたいと言ってくれたんです。彼らとこの映画を携えて、私の大好きな東京に戻って来られて本当に幸せです。
ベルガーさん: まだ来日して3日ほどしか経っていませんが、東京はものすごく刺激的でエネルギーが湧いてきます。毎晩2時間程しか寝てないんです。それは時差ぼけのせいではなく、あらゆるものを見たい、食べたい、経験したいということで、寝る間がないんです。私たちにとって特別な映画『ロード、ムービー』を東京国際映画祭に持って来ることができて本当に嬉しく思います。とても素晴らしいセレクションで、おそらく日本における映画文化や美意識がそういったものを引き寄せたのだと思います。この映画、つまりデーヴとの出会いについてですが、私のパートナーであるロスがある日「東京ですごい映画を観てきたよ」と興奮していたことを覚えています。その後カンヌで会ったとき、デーヴの簡単な説明を聞いただけだったのですが、その瞬間ロスとも目が合って「絶対やらなければいけない!」と決意したんです。脚本を見ずに決めてしまったので、脚本をいただいた時は実はドキドキしていました。でも10頁程読んだだけで、正しい決断をしたと確信できました。私たちが映画を選ぶ基準が二つあって、それは新しい世界が発見できること、そしてユニークで美しく、楽しめる映画であることですが、正にその手本になるような映画で、仕上がりについても非常に満足しています。

質問: エンドロールに「ヘアオイルを使わない人」というのが出てきましたが、お二人ともスキンヘッドですが、これはジョークですか?
監督: 確かにヘアオイルは使いません。使い過ぎるとこうなってしまうのかもしれません!冗談はさておき、実はそれは私の15歳の息子のことなんです。昔ながらのヘアオイルではなく、ジェルなどスタイリング剤を使っている若い世代の人たちを指す、ちょっと皮肉めいた表現というか洒落です。

質問: 移動映画館が出てくる話ですが、あまり野外上映をやっていないのですが、インドではどうですか?
監督: この映画を撮り始めた頃、映画の大きな配給会社をやっている友人に電話をして「移動映画館を題材にした映画をどう思うか」と尋ねました。「おもしろいよ。インドの70%は野外劇場だからね」という彼の返答を聞いてショックを受けました。そのことを確認しようと、ボンベイから徒歩で6 時間ほどのところへ出向きました。そこには何もなく、誰もいなかったので腹がたちました。ただ、何かが私を引きとめました。日が沈みかけた頃、一人の青年がやってきて、スクリーンを立てました。ちなみにこの映画のモデルになっている人物です。そしてどこからともなく人が集まり始めて、夜9 時になると3000 人程になっていて、一晩中映画を観ていました。そして日の出の頃になると、誰もいなくなりました。まるで夢を見たような気がしました。ですから、これはノスタルジーではなく現実なんです。もちろん上映しているのは、ボリウッド映画でもなく、地域制の高い独立系の映画です。その青年に「ハリウッド映画は上映しないのか」と聞くと、「一度『タイタニック』のオファがあったけど、船を見たこともない人たちに観せても意味がないから断った」ということでした。その次に出向いた時は、3 日間の上映でしたが、合わせて40 万人の人たちが集まっていました。本当に驚きました。
場面設定は社会に実存する問題や状況ですが、それがユーモアたっぷりに描かれています。「社会問題を定義するための映画ではなく、映画の楽しさや喜びを伝えることを目的としています。ただ、そういった現実や人間の見栄や虚栄心も、トーンを変えユーモアを交えて表現できたと思います。皆さんにもユーモアが伝わったようで嬉しく思います」とベルガーさん。最後に「監督のお気に入りのロードムービーは?」という質問にはしばらく考え込んで、「リチャード・レスター監督によるビートルズの『ハード・デイズ・ナイト』でしょう」との答えが返ってきました。