「NYスタテンアイランド物語」のゲストをお迎えし、記者会見行なわれました。

■日時・場所 10月23日(金)、13:15 @ムービーカフェ
■登壇者 ジェームズ・デモナコ (監督/脚本)

スタテンアイランド出身のデモナコ監督。医師の奥様がスタテンアイランド勤務ということで、現在在住のマンハッタンからスタテンアイランドに戻ろうと家を建てているとのこと。舞台となっているスタテンアイランドについて、そして個人的な思いが溢れている作品ついてお話を伺いました。
監督: 僕自信日本映画のファンですし、東京国際映画祭は非常に評判の高い映画祭ですので、参加できて光栄です。コンペティション部門の映画は、レベルの高い作品ばかりで、そのひとつとして加えていただけて感謝しています。

質問:日本の映画を多くご覧になっていると伺いましたが、最近では何かご覧になりましたか?
監督:大好きな映画のひとつで、『NY スタテンアイランド物語』のインスピレーションとなっているのが『トニー滝谷』です。数年前初めて観てから、その後何度も観ています。それから『うなぎ』も大好きで、登場人物のキャラクター設定をする上で参考にさせていただいています。
それから黒澤映画もたくさん観ています。

質問:『トニー滝谷』と『うなぎ』がインスピレーションの元ということで、もう少し具体的に教えていただけますか?
監督:『トニー滝谷』については、ビジュアルスタイルや映画のペースについて参考にさせてもらいました。『トニー滝谷』では登場人物についても、ドリーをゆっくりと動かしているような独特な撮り方をしています。ジャスパーのストーリーを伝える上で、それを参考にしました。
『うなぎ』では、登場人物が非常に個性的に描かれています。ごく普通の人々が奇妙な状況に巻き込まれて行くというストーリー展開を手本にさせてもらいました。

質問:映画に「○○○キル」という地名がたくさん出てきますが、これはスタテンアイランドに実在する地名なのでしょうか?
監督:はい。幼い頃も「キル」が付く地名が多いことに興味をかき立てられました。ちなみに妻はグレートキル出身です。これらはスタテンアイランドに移民してきたオランダ人が付けた地名で、「キル」はオランダ語で「水域、水塊」という意味だそうです。マフィアがいることで知られているスタテンアイランドで、たまたまつづりも発音も英語の「キル=殺す」と同じということで、この映画ではあえて皮肉と言いますかことば遊びをしてみました。馴染み深い土地でのロケで、実は知り合いや家族も全員登場しているんですよ。ちなみに最初の方に出てくるギャングは全員僕の従兄です。本物のギャングかどうかは、ここでは教えることはできませんけどね!スタテンアイランドには、3 つの特徴があります。ひとつは、ギャングが多いこと。僕の家の隣にはスタテンアイランドでは名の知れたギャングが住んでいました。二つ目に、ニューヨーク市の5 つの区の中で、スタテンアイランドだけが未だに浄化槽(汚水処理タンク)を使用しているんです。要するに下水道がないんです。三つ目は、ニューヨーク市の中で一番イタリアンのデリカテッセンが多いことです。

質問:主要人物ですが、その3 人の役者さんを起用した経緯を教えてください。
監督:まずイーサン・ホークとは前にも仕事をしたことがあって、ものすごく頭の切れる役者です。シンプルな役どころを演じるのが上手いんです。ヴィンセント・ドノフリオは、数少ないギャングの役を演じたことのないイタリア系アメリカ人俳優の一人で、今回快く初挑戦してくれました。僕はジョン・カサベテス監督の大ファンなので、以前からシーモア・カッセルと仕事をさせてもらいたいと思っていました。最近あまり第一線に出ていなかったので、この映画で主要な役を演じてもらえて光栄です。また、デリのおじさん役にぴったりでしたしね!

質問:監督の作品は、テレビシリーズを含めて全て観ています。シーモア・カッセルさん演じる老人役だけが、他の二人とは年が離れていて、監督が脚本を担当された過去の作品のメインキャラクターよりも年上です。監督の中に心境の変化があったのでしょうか?
監督:脚本を書いている時、サリーは35 歳、パルミは50 歳くらい、ジャスパーは70 歳と、広い年齢幅をもたせようとしました。そのことによってスタテンアイランドの絵模様をより大きく描けると思ったからです。僕も十代の頃デリでアルバイトをしていて、そこの小父さんに競馬を教わったりしました。実は、その小父さんがジャスパーのモデルになっています。ジャスパーをことばが話せないという設定にした理由は、世界から、そして周囲に暮らす人たちから切り離して、空虚な世界観を描きたかったからです。自分に存在意義がないと考える人たちというのがこの映画のテーマなのですが、特にシーモアの場合は、ある意味隔離されているという状況を隠喩的に表現したかったんです。競馬で勝つことで、少しその疎外感を克服します。
動機が不純であれど森を守るためのキャンペーンが展開されたり、ジャスパーが乗っているクルマがトヨタ車であったりと、東京国際映画祭にぴったりの作品。映画の制作にあたっては、リュック・ベッソンさんが資金援助、そしてアドバイスをしてくださったそうです。