「ACACIA」の監督をお迎えし、記者会見が行なわれました。

■ 日時・場所 10月22日(木) 14:35 @ムービーカフェ
■ 登壇者 辻仁成(監督)

心優しい元プロレスラーと孤独な少年。家族を見失ったふたりは、互いの存在に励まされ、真実と向きあう勇気を得てゆく…辻仁成監督が紡ぐ、詩情あふれる愛と絆の物語。誰も見たことのないアントニオ猪木がここにいる。
まずは、本日出席を見合わせることになりましたアントニオ猪木さんからのメッセージが紹介されました。
「元気ですか?元気があれば何でもできる、元気があれば映画祭にも出品できる。スタッフ、キャストが作り上げたこの作品が、こうして東京国際映画祭の場において上映されますことを、キャストの一員としてファンの皆様、関係者各位へ感謝申し上げます。本日はご周知の通り術後間もないということもありまして、お伺いすることはできませんが、この映画が皆様の中に何かを残すことができる映画になればいいなと思っております。」
映画、文学、音楽、と世界中で活躍されている辻仁成監督。記者会見では自身の最新作について、観客の大きな期待に応えるべくお話いただきました。
監督: 「元気があれば何でもできる」という猪木さんの精神を引き継いで、今日は一人で頑張りたいと思います。

質問: この映画は人間を真正面から温かく描く美しい作品で、非常に感銘を受けました。辻監督は9.11 の事件を境にこの映画のことを考えるようになったとお伺いしております。そのことについて、お話いただけますでしょうか。
監督: 9.11 以降世界が戦争と言いますか、お互いを憎しみ合うような世界になっています。前までは暴力を描く『ほとけ』とか『フィラメント』といった作品を作ってきました。国同士や違う宗教間で憎しみ合う世界の状況を見ている内に、今表現者としてやらなければいけないことは、希望と言いますか、人を繋げるものは唯一希望なんじゃないのかと、憎しみを無くすことができるのは希望なんじゃないのかと思い始めました。暴力を描くことは止めようと思います。それから7〜8 年経ちますが、ずっと考えていたのは、人と人を結ぶことができるような作品を作れないかと、そのように自分の気持ちが大きく変わって、それ以降初めての作品になります。

質問: コンペティション部門で唯一の日本作品であることについて、グランプリを取る自信の程について、また、本作品に息子さんに対する贖罪といったような思いが込められているのかどうかについてお聞かせください。
監督: 自分が選んだ離婚によって、罪のないこどもに父親を知らずに生きていかなければならない境遇を与えてしまったという自分の中のある種の思いがあります。再婚して、二人目のこどもとはいつも一緒にいることができるのですが、尚更一人目のこどものことを思ってしまいますが、家族の前で悲しい顔を見せることはできませんし、こどもに弱い面を見せることもできません。後悔なのか反省なのかはっきりとした答えは出ていませんが、父親として何かを伝える方法はないのかなと考えたのがきっかけです。表現することを仕事にしているので、100 年残る芸術性のある映画を作れば、いつかこどもにこれを見てもらって、父親はちゃんと自分のことを考えてくれていたんだとこどもがわかってくれればいい。だから受賞することは重要ではなく、1%も期待していません。この映画にグランプリを与えてくれることのできるのは、息子だけなんです。息子に偽善者だと思われればそれだけの作品ですし、すごく個人的な理由で作られた映画なんです。離婚というのは個人同士の問題で、こどもへの影響については後悔して謝罪して済む問題ではないですし、そうするべきではないと思います。では、こどもの悲しさには誰が応えるのかという問題については、自分は表現者であり物書きでもあるんですが、答えがわからないんです。
こども達に対する思いについては、語りきれない様子の辻監督。最初の家族についてはノーコメントでしたが、「今の家族がバックアップしてくれなければこの映画は作れなかった」こと、そして「世界中の離婚を経験している人や、こどもへの思いが届けばいい」と語っていました。
急きょ舞台あいさつをキャンセルすることになった猪木さんについて辻監督は、「昔からファンで、偉大な人。今日ここに来られなかったことについては、猪木さんが一番残念がっているはずです。実は撮影の時から腰が悪く、持病と闘っているということを途中で知りました。でも決して弱いところを人に見せることなくやり遂げていただきました。本当に世の中に対して考えている、環境問題についても誠意をもって地球のことについて考えている、そんな猪木さんの本質がこの映画に表れていればいいなと思っています」と猪木さんに対する思いについてもお話いただき、猪木さんをまねて拳を挙げるポーズを見せてくださいました。