10月3日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開されている『ボヴァリー夫人』。フランス文学の最高峰であるフローベールの著書をロシアの鬼才アレクサンドル・ソクーロフ監督が映画化した注目作。「何を満たせば幸せになるのか」、エマ・ボヴァリーの幸せ探しの物語は、小説発表から150年余りの時を越えて現代社会の迷える女性たちに問いかけています。公開初日より好調な動員を続ける本作の公開を記念しまして、「<ボヴァリー夫人>にみる女性の生き方」をテーマにトークショーを行いました。

日時:10月10日(土)  
場所: 渋谷シアター・イメージフォーラム
トークゲスト:秦 早穂子さん(映画評論家/エッセイスト) 古賀 太さん(日本大学教授)
テーマ:<ボヴァリー夫人>にみる女性の生き方

トークショー 「<ボヴァリー夫人>にみる女性の生き方」  

古賀さん:ソクーロフ監督によるロシア版の本作は、エマを演じている女優さんが、実はロシア人ではなくて、フランスに住んでいるイタリア系ギリシャ人です。我々が想像するいわゆる“ボヴァリー夫人”とはかなり違う印象なのですが、いかがですか?

秦さん:彼女の鷲鼻と、痩せてごつごつした大きな体と、それに見合わない甘くてセクシーな声は、多くの女性に、違和感、抵抗感、不愉快な存在という感じさえ与えると思う。でも、それが、実は、アンバランスで不安定な女性の心の中や肉体を表しているのではないかと。
また、ソクーロフが、何故、素人の彼女を選んだのか、彼女が体現したものは一体何か、ということに非常に大きな意味があると思います。たじろがず、冷静に観ていくと、確かにここには、私たち女性が持っている本質、抱えている問題が、無駄なものを排除された形で、さらけ出されてくる、そこがひとつの見どころだと思います。

古賀さん:私は、この映画を20年前に観て、最近見直して、それからまた原作を読んでみたんです。そうしたら、不思議なことに、あ、これあったと思うシーンがたくさんありました。似てないようで、原作に忠実な部分がたくさんあるんです。さらにもう一度、映画を観てみたら、さらに忠実かもしれないと思うようになったんです。

秦さん:結局この時代から比べれば、現代の女性の社会的地位や条件はよくなり、ずいぶんと変わったところもありますが、どんなに変わっても、絶対に変わっていないもの、冷静に見れば、「自分の中にボヴァリー夫人がいるんだ」ということは確かであると、よくわかる映画だと思います。

古賀さん:最後にソクーロフ監督の秘話をひとつ。実は、私、ソクーロフ監督が初めて来日された時に、お会いしています。どんな方だろうと思っていたんですが、いらっしゃるなり、「食べ物は、日本料理はやめてください。フランス料理かイタリア料理にしてください」さらに、「今、ソ連では肉が欠乏しているので、肉料理を食べます」とおっしゃり、それから毎日、仏料理や伊料理を食べるのですが、彼は、前菜などは食べず、「前菜も肉」とチキンを食べ、メインで牛肉を食べるといった感じでした(笑)。

プロフィール
【秦 早穂子】 映画評論家/エッセイスト。ヨーロッパ文化、特にフランス文化への深い造詣に裏づけされたエッセイや映画評論には定評がある。中でも女性の気持ちを的確にとらえる文章は他に類をみない。訳書に『獅子座の女シャネル』、著書に『スクリーン・モードと女優たち」他。

【古賀 太】 日本大学教授。国際交流基金と朝日新聞社でのレンフィルム祭や、イタリア映画祭、ドイツ新作映画祭の企画担当や文化部記者を経て、この4月より教鞭を執る。訳書に「魔術メリエス」他。

10月3日より『ボヴァリー夫人』 シアター・イメージフォーラムにて好評上映中!