第62回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2009】9
★ 審査員賞:アンドレア・アーノルド監督『フィッシュ・タンク』
2005年、『WASP』がアカデミー賞短編実写賞に輝き、長編第1作目の前作『レッド・ロード』で2006年のカンヌで審査員賞を受賞したイギリスの気鋭女性監督が再び同賞を獲得した少女の成長物語。
閉塞感漂う街で、若作りの派手な母とオマセな妹と暮らす15歳のミア。ダンサー志望の彼女は、ダンスに没頭しながも、日々やり場のない怒りを抱えていた。そんなある日、母親が新しい恋人を連れて帰って来たことから、ミアの人生は急激に変化するが…。人間観察眼の非常に鋭い演出が見事で、キャストの好演も光る作品だ。中でも母親の恋人を演じたマイケル・ファスベンダー(昨年のカメラドール受賞作『ハンガー』での熱演が記憶に新しいが、『イングロリアス・バスターズ』でも好演)の起用が成功の鍵となった。アーノルド監督は古いイギリス映画のリアリティさが好きだそうで、影響を受けた人物として、デヴィッド・リンチ、コーエン兄弟、タルコフスキーらの名前を挙げた。
★ 審査員賞:パク・チャヌク監督『サースト』
2004年の『オールド・ボーイ』でグランプリを受賞した韓国の鬼才監督による異色のヴァンパイア・コメディで、本国公開時にはポスターの絵柄が物議を醸した作品だ。敬愛される神父が、ボランティア先のアフリカでウイルスに感染、吸血鬼になることで一命を取り留める。その後、幼馴染みの人妻との危険な恋に身を任せた彼は…。授賞式で監督は、主演のソン・ガンホに感謝の意を表した。
◆イザベル・ユペールらが審査に携わらなかった各賞の受賞結果は以下の通り!
●短編パルムドール:ホアオ・サラヴィーザ監督『アリーナ』
弱冠25歳のポルトガルの気鋭監督の短編2作目で、素人俳優を使った低予算映画ながら見事に受賞!
短編映画部門の審査員は、ジョン・ブアマン(委員長)、ベルトラン・ボネロ、フェリッド・ブーゲディールの監督3人と、女優のチャン・ツィイーとレオノール・シルヴェイラの5名。
●カメラドール(新人監督賞):ワーウィック・ソーントン監督『サムソンとデリラ』
短編映画で腕を磨いたオーストラリアの新鋭監督の長編デビュー作で、”ある視点”部門の上映作品。中央オーストラリアの砂漠にある先住民アボリジニの小さなコミュニティで、恋に落ちた少年と少女の物語。
審査員長を務めたのは『デイズ・オブ・グローリー』(2006年)で男優賞をアンサンブル受賞した仏俳優&監督のロシュディ・ゼム。
【ある視点部門】(審査委員長はイタリアのパオロ・ソレンティーノ監督)
●ある視点賞:ヨルゴス・ランティモス監督『ドッグテュース』
父親の方針で家の敷地から一歩も外に出ないで暮らす3人兄妹。奇妙な一家の奇妙な生活を描くギリシャ映画。
●審査員賞:コルネリウ・ポルンボワ監督『ポリス・アジェクティヴ』
『ブカレストの東、12時8分』で2006年のカメラドールを受賞したルーマニアの気鋭監督が、若い警官を主人公にして描いた人間ドラマ。
●特別賞:パフマン・ゴバティ監督『ノーワン・ノウズ・アバウト・ペルシャン・キャッツ』/ミア・ハンセン・ラブ監督『ファーザー・オブ・マイ・チルドレン』
また、高等技術院(CST)が技術者を対象にして選ぶ”バルカン賞”は、『マップ・オブ・ザ・サウンズ・オブ・トウキョウ』のアイトール・ベレンゲル(音響技術)が受賞。この他にも映画学校の学生作品を対象とするシネフォンダシオン部門では1位〜3位までの賞が決められ、監督週間・批評家週間ともにそれぞれ賞を選出するほか、全キリスト教協会が選ぶエキュメニック賞、国際批評家連盟賞なども選出されている。
(記事構成:Y. KIKKA)