第62回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2009】8
◆最後までパルムドールを争ったとされる『預言者』のジャック・オディアール監督は次点グランプリにご満悦!
カンヌ国際映画祭便り4で既にお伝えした通り、グランプリを受賞した『預言者』は、フランスの刑務所を舞台に、塀の中の様々な掟を学び、派閥抗争の中で頭角を現していく青年の姿を社会的視点を込めながら緊張感たっぷり描いた秀作で、フランス人ジャーナリストが最も高く支持した作品だった。そのため授賞式後の受賞者会見では「パルムドールじゃなくて残念では?」という質問までが飛び出し、受賞を素直に喜んでいたオディアールは「この会見場に来るまで40回も同じ質問をされているよ。嬉しいに決まってるだろう。グランプリは、いい賞じゃないのかい?」と切り返していた。
◆それでは、長編コンペティション部門の他の受賞作と受賞者コメントをかいつまんでお伝えしよう!
★ 特別功労賞:アラン・レネ監督
闘病生活を長い間送っていたが、2006年に現場復帰を果たし、今回はクリスチャン・ガイイの小説”L’Incident”を映画化しコンペに挑んだアラン・レネ監督に長年の功績を讃える特別功労賞が贈られた。授賞式の壇上に立った名匠に対し、来場者は長いスタンディングオベーションで祝福。監督は「映画は一人では作れない、多くの友人の力のおかげ」と、会場にいた『雑草』の主演俳優のアゼマとデュソリエ、そしてスタッフまでの一人一人の名をあげて謝意を述べた。
★ 監督賞:ブリリャンテ・メンドーサ監督『キナタイ』
昨年の『サービス』でカンヌのコンペに初参加したフィリピンの気鋭監督が、2度目のトライで受賞。主人公はマニラで犯罪学を学ぶ警察官志望の若者。恋人との間に生まれたばかりの子供がいる彼は、朝、子連れで結婚式を挙げる。その後、生活費を稼ぐために、一日のアルバイト仕事を引き受けるが、それはヤクザ絡みの超ヤバい仕事だった…。青年の悪夢体験をドキュメンタリータッチで綴った衝撃作で、ライティングも物議の的に。授賞式後の審査員会見では「とてもオリジナルなクリエイティブ・スタイルだった」との評価を受けた。
★ 女優賞:シャルロット・ゲンズブール『アンチキリスト』
夫婦の営みの最中に幼い息子を不慮の事故で亡くしたことで精神を病んでいく妻と彼女を支える夫。妻の傷ついた心と壊れかけた結婚生活を修復すべく、2人は森の奥深くにある小屋に移り住むが、その関係は悪化の一途をたどり…。モノクロ映像のオープニング部分は非常に秀逸だが、後半は急転してB級ホラーと化してしまう鬼才ラース・フォン・トリアー監督の衝撃的な問題作。プレス試写ではブーイングの嵐となり、公式記者会見も紛糾した。
だが、あっぱれな女優魂で全裸での過激な自慰シーンに果敢に挑んだシャルロット・ゲンズブールの受賞には温かい拍手が送られた。受賞者会見では、賛否両論であることは知っているが、監督の才能を信じているとキッパリと語った彼女は、母親で女優のジェーン・パーキンに受賞を一番最初にメールで伝えたそうで、「ワァ〜オォ!」という反応が返ってきたという。
★ 男優賞:クリストフ・ヴァルツ『イングロリアス・バスターズ』
ナチ占領下時代のフランスを舞台にしたクエンティン・タランティーノ監督の戦争映画で、ナチスと戦うユダヤ系アメリカ人ゲリラ部隊の隊長役をブラッド・ピットが演じるということで話題を集めた作品だが、フタを開けてみると各国の人気俳優が結集した豪華な群像劇に仕上がっていた。だが、誰よりも光っていたのは、独・仏・伊・英の4ヶ国語を流暢に操るナチ将校ランダを見事に演じきった52歳のオーストリア人俳優クリストフ・ヴァルツだ。30年間プロの俳優を続け、行き詰まりを感じていたという彼は、この役のおかげでまた情熱を取り戻すことが出来たと受賞を喜び、タランティーノに「俳優を続けていく使命を新たに感じさせてくれた」と、感謝した。役柄同様に語学に堪能で演技も確かな彼は今後、世界的な俳優として羽ばたくに違いない。
★ 脚本賞:メイ・フェン『スプリング・フィーバー』
人妻から夫の浮気調査を依頼された男が、同性愛の世界に迷い込んでいき、男と男と女の奇妙な関係を繰り広げていく様を描いた中国映画。監督のロウ・イエは、2006年にコンペに出品した『天安門、恋人たち』の性描写が当局から咎められ、5年の活動停止を言い渡されている。なので本作(当然、中国国内では上映禁止)はフランスと香港の資本で製作し、当局の目を盗みながら撮影したという。受賞者会見では監督が登壇し、「映画製作におけるフリーダムを!」と訴えた。
(記事構成:Y. KIKKA)