第62回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2009】7
5月13日から24日まで12日間にわたって開催された第62回カンヌ国際映画祭が閉幕、現地時間の24日の夜に授賞式と審査員&受賞者会見が行われた。
今年の長編コンペティションは、実力派監督の名がずらりと並び、見応えのある作品が多かったが、なかには首を傾げたくなる作品も。我々プレスは授賞式の模様を会場のリュミエールではなく、別会場のドビュッシーのスクリーンで観るので、賞が発表される度に気兼ねなく歓声をあげたり、ブーイングしたりと喧しいのだが、今年ほどブーイングの嵐が吹き荒れた年も珍しい。中でもやり玉に上がったのは審査員賞の『サースト』と脚本賞、そして監督賞だった。審査もかなり荒れたらしいが、男優賞と女優賞は順当な受賞で、最高賞パルムドールとグランプリを受賞したのは下馬評通リの2作だった。
◆授賞式セレモニーにプレゼンター役で登場し、お茶目なコメントを発したテリー・ギリアム監督!
授賞式セレモニーのMCを務めたのは昨年に続いて登板したフランスのコメディアン、エドゥアール・バエル。カメラドール(新人監督賞)のプレセンターとして登場したのはフランスの女優イザベル・アジャーニ。脚本賞のプレゼンターはクロージング作品『シャネル&ストラヴィンスキー』の主演女優アナ・ムグラリス。女優賞のプレゼンターは昨年、『イル・ディーヴォ』で審査員賞を受賞、今年は”ある視点”部門の審査委員長を務めたパオロ・ソレンティーノ監督。男優賞は女優のチャン・ツィイーが務めた。
監督賞のプレゼンターは『パルナサス博士の幻想館』が招待上映されたテリー・ギリアム監督。登壇するや、「監督賞をどうもありがとうございます、皆さんに感謝します」と、人をくったコメントを茶目っ気たっぷりに述べ、会場を笑わせた。グランプリは『アンチキリスト』に主演したウィレム・デフォー。そして最高賞パルムドールのプレゼンターは審査委員長のイザベル・ユペール自らが務めている。
◆パルムドールに輝いたのは、21日(木)に上映されたミヒャエル・ハネケ監督の『白いリボン』
オーストリアのミヒャエル・ハネケ監督は、2001年の『ピアニスト』でグランプリ&男優賞(ブノワ・マジメル)&女優賞(イザベル・ユペール)の三冠に輝き、2005年の『隠された記憶』では監督賞を受賞したカンヌの常連監督。人間の”負”や”影”の部分を赤裸裸に描き続けてきたハネケ監督だが、5度目のコンペ作品となった監督&脚本作『白いリボン』は、第一次大戦前夜のドイツ北部の封建的かつ禁欲的な村で起こる不穏な出来事の数々を淡々と描いたモノクロ映画で、外部者といえる小学校の男性教師の視点(ナレーション)で綴られていく。”白いリボン”とは、牧師が自分の子供を罰する際に腕に巻かせて、”正しいこと”を思い出させるためのリボンを指し、印象的に使われている。
授賞式でハネケ監督は、「人生で一番嬉しい瞬間です。難しい映画をコンペに選出してくれた映画祭、自由と資金を与えてくれた製作者、この場にはいないスタッフと子役たちに感謝したい」と喜びのコメント。
授賞式後の受賞会見では、「自分では欠点ばかりが目に付き、作品に満足したことは1度もない。今回は審査員たちが、明らかに欠点に気がつかなかったということでしょう」と謙虚に語った。
審査委員長のイザベル・ユペールが『ピアニスト』の主演女優だったことが審査結果に影響を与えたのではとの憶測もあったが、授賞式後の審査員会見で、ユペールは、この作品について「主題との距離を完ぺきに取った素晴らしく飛び抜けた映画」と評価した。また、『白いリボン』は国際批評家連盟賞も受賞した。
(記事構成:Y. KIKKA)