映画祭も明日で最終日。映画祭の華であるコンペティション部門に参加した全20本の最終上映作となったのが、東京が主な舞台となるイザベル・コイシェ監督のスペイン映画『マップ・オブ・ザ・サウンズ・オブ・トウキョウ』だ。この作品は、東京の魚河岸で働く表の顔と殺し屋という裏の顔を持つ孤独なヒロイン(菊地凛子)が、殺しの標的であるスペイン人男性(セルジ・ロペス)と愛に溺れていく姿を綴ったラブ・サスペンス。
 監督は『死ぬまでにしたい10のこと』『エレジー』等で知られるスペインの女性監督で、浅草の花やしき、大田市場や下北沢、高円寺など、映画のほとんどのシーンを東京で撮影しており、物語はヒロインの唯一の友人である年配の音効技師(田中泯)の日本語のナレーションで進行していく。他の共演者は中原丈雄、榊英雄、押尾学ら。
 ヒロインを演じた菊地凛子は、2006年の『バベル』に続き、2度目のカンヌ入りとなった。

◆23日(土)、12:30より『マップ・オブ・ザ・サウンズ・オブ・トウキョウ』の公式記者会見が開催!

 イザベル・コイシェの監督の作品が大好きで、脚本を読まずに出演を決めたという菊地凛子は、23日の昼に開かれた公式記者会見にはシャネルの清楚な白いスーツ姿で登場。「私は今、難しい役をやろうと思っている時期。ヌードやセックスシーンがあり、実際に難しかったけれど、いいタイミングでこの映画に参加できて嬉しい」と笑顔でコメント。また出演を決めた理由は「監督とは共鳴し合ったというか、詩的で感覚的に書かれた脚本がとても好きになった。すごく複雑だったけど、そこに惹かれました。監督とは分かり合えると思ったから」だそう。
 一方、「文学や食などの日本の文化にとても親しみを感じている」というコイシェ監督は、2006年に『あなたになら言える秘密のこと』が東京国際女性映画祭に招待上映されて来日した際に、この映画のアイデアが浮かんだと語った。

◆すっかり国際派女優となった菊地凛子はカンヌ入りする前にイザベル・コイシェのスペインの自宅に滞在

 同日の夕方、菊地凛子とイザベル・コイシェ監督は、カンヌの目抜き通り沿いのビーチでそれぞれ日本人記者の取材に応じた。
 『バベル』でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされて以来、すっかり国際派女優として認知された菊地凛子だが、今回も日本を出国後に、イタリアのヴェネチアで催された”シャネル”のショーを観賞。そこからスペインのバルセロナに飛び、イザベル・コイシェ監督の自宅に滞在。その地で『マップ・オブ・ザ・サウンズ・オブ・トウキョウ』のプロモーションを行い、スペイン媒体の取材を30件ほどこなしてからカンヌ入りしたという。
 スペインの人気俳優で、『ハリー、見知らぬ友人』でセザール賞最優主演男優賞を受賞するなど、フランスでも人気の高い演技派セルジ・ロペスとの共演については、「最初は、とてもヘアリー(毛深く)で、熊みたいだなと思いました(笑)。胸板も厚いので、戸惑いましたよ。でも、ある時から”この人、すごくステキ”と感じ始めて…。撮影現場でも彼がムードメーカーとなり、プロの俳優として、皆を引っ張ってくれたんです。撮影の後半には彼を、”本当にセクシーだな”と思うようになった」そうだ。
 殺し屋のリュウの大好物は、いちご大福ならぬ”もちクリーム”とラーメンだという設定だが、それらは実際にコイシェ監督が好きなモノで、「監督を始めスペイン人スタッフは超グルメで、撮影中は毎晩のように高級レストランや割烹で食べ歩いてました。それにつきあっていた私は最終的に胃を壊してしまった(笑)」という。  

◆『マップ・オブ・ザ・サウンズ・オブ・トウキョウ』で東京でロケを敢行したイザベル・コイシェ監督は、驚くほどの日本通!

 ヒロインの殺し屋リュウの役に菊地凛子を抜擢したコイシェ監督は菊地にゾッコンで、「バルセロナの自宅に私が泊める女優は、サラ・ポーリーと凛子だけ。この二人は特別」なのだという。
 映画の語り部となる音効技師役の田中泯については、「15年前にニューヨークで彼の舞踏を観て惚れ込んでいたの。今回の映画のナレーター役はとても重要。彼しかいないと思ったけれど、最初は自分の劇団のことで忙しいからと断わられたの。そこを何とか拝み倒して承諾してもらった」そうだ。
 奇抜なラブホテルの部屋が登場するが、「ベッドの上でのラブシーンに飽き飽きしていたから、脚本を書いている時から、どこか他にいい場所はないものかと考えていたの。地下鉄の車両を模したラブホテルの部屋は、大阪に実際あるのよ。それをセットで再現しただけ」という。また劇中に、美空ひばりが歌う”ばら色の人生”が流れるが、エディット・ピアフ本人は別として、この曲のカバーは美空ひばりが一番素晴らしいと思うと語った。
(記事構成:Y. KIKKA)