第62回カンヌ国際映画祭便り【CANNES2009】1
第62回カンヌ国際映画祭が5月13日から開催されている。映画祭の初日を飾ったのは、カンヌ史上初めてのアニメのオープニング作品となるディズニー/ピクサー社のCGアニメ『カールじいさんの空飛ぶ家』(12月公開)。子供のころから冒険好きで、南米の秘境”パラダイス・フォール”に憧れ続けていたカールじいさんが、亡き妻との約束を果たすため”空飛ぶ家”で旅立つが、ひよんなことから8歳の少年が道連れになるという夢と希望にあふれたアドベンチャー・ストーリーだ。この作品は3D版上映のため、開幕セレモニーに正装で臨んだ観客は3D用メガネを着用しての鑑賞となった。
世界的経済危機、新型インフルエンザの影響が及ぶ中での開催となった今年は、映画祭への参加者の減少が取りざたされているが、街中の喧噪も心無しか例年を下回っている感じがして残念だ。だが、映画祭はまだまだ序盤。気を取り直して、怒濤の12日間を乗り切っていきたい。今年も美味しい料理とワインの力を借りながらね…。
◆イザベル・ユペールが審査委員長を務める今年の長編コンペティション部門は豪華なラインナップ!
さて、映画祭の柱である”コンペティション”部門だが、20本が出品された今年は、クエンティン・タランティーノ、ジェーン・カンピオン、ラース・フォン・トリアー、ケン・ローチらの過去の最高賞受賞監督を始め、ミヒャエル・ハネケ、ペドロ・アルモドバル、マルコ・ベロッキオ、ジャック・オディアール、ツァイ・ミン・リャン、パク・チャヌク、ジョニー・トーらカンヌの常連監督、名だたる実力派監督がひしめきあっている。
総勢9名の審査員の顔ぶれは以下の通り。イザベル・ユペール(委員長)、アーシア・アルジェント、ロビン・ライト・ペン、スー・チー、シャルミラ・タゴールという仏・伊・米・台・印の女優陣と、昨年”Three Monkeys”で監督賞を受賞したトルコのヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督、イギリスの作家&脚本家ハニフ・クレイシ、米のジェームス・グレイ監督、韓国のイ・チャンドン監督。
残念ながら、昨年に続きコンペティション部門に日本映画の選出はなかったが、菊地凛子の主演で東京が主な舞台となるイザベル・コイシェ監督のスペイン映画『マップ・オブ・ザ・サウンズ・オブ・トウキョウ』がコンペ部門の最終上映作となっているので期待したい!
◆カンヌ映画祭での実績を誇る河瀬直美監督が功労賞”金の馬車賞”が受賞!
映画祭2日目となる14日、併行部門である”監督週間”のオープニング・イベントで、河瀬直美監督に功労賞”金の馬車賞”が贈られた。フランス映画監督協会が選出するこの賞は、個々の作品ではなく経歴に対して贈られる賞で、今回で7回目を数える。過去の受賞者にはクリント・イーストウッド、デイヴィッド・クローネンバーグ、ジム・ジャームッシュらのそうそうたる監督たちが名を連ねており、今回は日本人としても、女性としても初の受賞者となった。
1997年の『萌の朱雀』でカメラドール(新人監督賞)を当時史上最年少で獲得し、2007年には『殯(もがり)の森』でグランプリに輝いた河瀬監督にとって、カンヌの監督週間は原点。フランス映画監督協会会長から王冠型の金色のトロフィーを授与された河瀬監督は、「監督週間の関係者が”僕たちが発見した才能”と祝福してくれたのが嬉しかった」と12年前当時のことを振り返った後、その後に歩んだ監督人生を感慨深げに述べ、最後に「今夜は、この素晴らしい賞に酔いしれますが、明日からはまた初心者に戻って映画を作っていきたい」と新たな決意を語った。
また授賞式に先立ち、監督が自費で編集し直した2000年の『火垂』の再編集バージョンが上映されたが、河瀬監督は現在、昔ながらの自然分娩をテーマにしたドキュメンタリーの製作中であり、実行委員会会長として”なら国際映画祭”を準備中だという。
◆唯一の日本映画である是枝裕和監督の『空気人形』が14日(木)、22:30より”ある視点”部門で上映!
2001年『DISTANCE』、2004年『誰も知らない』がコンペに出品された是枝裕和監督の5年ぶり3度目のカンヌ作品となった監督&脚本&編集作『空気人形』(今秋公開)。これまでオリジナル作品に拘ってきた是枝監督が、韓国の人気女優ペ・ドゥナを主演に迎え、業田良家の短編コミックを映画化、カンヌでの上映に間に合わせるため、急ピッチで編集作業を行った作品で、主人公は心を持ってしまった人間の実物大の人形(ラブドール)。撮影にリー・ピンビン、美術に種田陽平らが参加し、ファンタジーながら人間の本質に迫ったドラマに仕上がっている。
カンヌ入りしたのは是枝監督、主演のペ・ドゥナ、空気人形の持ち主を演じた板尾創路、空気人形が恋に落ちるレンタルビデオ屋従業員役のARATAの4人で、レッドカーペットを歩き、正式上映に立ち会った。
(記事構成:Y. KIKKA)