2009年7月19日、日曜日。

演劇集団キャラメルボックスの舞台を映像化した『君の心臓の鼓動が聞こえる場所』が上映された。本作はLivespireという、演劇やコンサートなどを劇場のスクリーンで観ることで臨場感あふれるライブ体験ができある新しいデジタルエンターテインメントである。
上映前、多くの観客の前で監督の佐藤克則、脚本・演出の成井豊、主人公の母役を演じた大森美紀子が舞台挨拶を行った。

Q:演劇集団キャラメルボックスはどのようなコンセプトを持って活動しているのでしょうか。

成井さん:キャラメルボックスは24年前の1985年に、早稲田大学の学生演劇サークル出身のメンバーを中心に結成した、ファンタジーを上演する劇団です。当時公開されていた『天空の城ラピュタ』を団員に見せて、「こんな芝居をやろう!」と言ってました(笑)。小難しい劇ではなく、大人から子どもまで楽しめるものを作りたいと思って活動しています。

Q:本作の脚本は、どのような経緯で書く事になったのでしょうか。

成井さん:まず初めに小説を書く依頼をいただいたんですが、私は小説家ではないので、書くなら芝居にできるものにしようと決めました。芝居にすることを前提に書きました。去年の秋に戯曲を書き、冬に公演をしました。書くのにはかなり苦労したんです。小説だと主要な登場人物は4、5人ですが、うちの劇団は30人以上いるので、10人以上出さなきゃいけませんし(笑)。なので小説には登場しなかった主人公の父、母、妹を舞台に登場させました。

大森さん:小説では私が演じた母役は、ずっとハワイ旅行に行ったままでしたね(笑)。おばあさん役ということで、どこまでゆっくり動こうか悩みましたね。最近は元気なおばあさんが多いのですし、キャラメルボックスの劇はテンポが早いので、負けないくらいにちゃんと動いて演じました。

Q:舞台の映像化についてどう思いますか。

大森さん:今まで舞台は生で観てLIVEを楽しむもので、DVDは舞台を観に来ることができない方のための最終手段だと思っていました。けれど、Livespireでこの作品を観て、すごく面白かったです。同じ素材を、薬味や調理法を変えたように感じました。舞台は生で楽しむだけじゃないものだと分かり、監督には感謝しています。

Q:映像化ならではの撮り方はあるのでしょうか。

佐藤監督:舞台の世界を崩さないように撮影するのが難しく、気を使う事でもあります。先程大森さんが”同じ素材を薬味や調理法を変えたよう”とおっしゃっていたように、私は舞台の映像化は“翻訳”かなと思います。英語で書かれた文体を日本語に訳すような。映像化のために昼と夜の2回撮影しましたが、今回上映するのは夜の部の本番1回きりのものを使用しています。

Q:撮られる側も普段の舞台とは違った意識があるのでしょうか。

大森さん:舞台が映像として一生残ると思うと、ドキドキしました。顔もアップで撮られるかもしれないので、メイクはいつもより薄めにしたり、髪や衣装もいつもより気を使ったり。

成井さん:昔から“作るのは舞台、観るなら映画”と決めていました。いつもは後ろから立ち見で舞台を観ていたので、顔が見えなかったのですが、映像で観れて、“本番で皆が、この台詞はこんな顔で言ってたのか”と分かりました。この作品も自宅で観ましたが、もうね、感動しました。ボロボロ泣いてしまって、監督の手腕ですごく面白い作品ができたと思っています。

最後に、佐藤監督は本作の見どころについて「親子のドラマです。親の視点と子どもの視点で存分にどっぷり浸かって、泣いて下さい」と語った。
その言葉の通り、観客の多くがクライマックスに涙していた。
また、本作は10月から全国公開予定である。

(Report:今井理子)