2009年7月15日、水曜日。

ユナイテッド・シネマ株式会社が毎年映画のプロット(原案)を募集する「シネマプロットコンペティション」。それをSKIPシティ彩の国ビジュアルプラザのインキュベートオフィス入居者が映画化し県内の劇場で上映するプログラム<D-MAP>が2008年にスタート。その第一弾として完成した『ソロコンテスト』が特別上映された。
また、会場には特別ゲストとしてSABU監督、映画プロデューサー・宇田川寧氏、そしてユナイテッド・シネマ(株)企画編成部長・田部井悟氏が登壇した。

———第一部

『ソロコンテスト』の監督・下條岳と原案・脚本の尾ヶ井慎太郎が舞台挨拶。本作は吹奏楽部でコンテスト出場のためにサックスの練習に励む女子中学生が、音楽を通じて心の成長する姿を爽やかに描いた物語。

下條監督は、自身も中学の3年間に吹奏楽部でサックスを演奏していた経験があり、その経験を活かして映画を制作したいと思っていたところ尾ヶ井氏が書いた原案を読んだことで、この企画が始まった。
‘原案通りに映画化する’のではなく、脚本家としても活動している尾ヶ井氏との二人三脚で、本作の脚本が出来上がった。下條監督は「私は高校生の頃から映画を自主制作してきました。この作品の制作では、自分の考えだけではなく、自分以外のプロの方の意見もいただきながら取捨選択していく作業で精一杯でした。今思うと、それが1番楽しかったですね」と語った。
また、尾ヶ井氏は「原作とは180度違う作品になりましたが、下條監督と一緒に脚本を書いて、2人の目指す方向に進めました」と話した。

———第二部

田部井氏は現在の映画業界の現状や取り組みについて、次のように話した。
「映画業界は、2003年から5年間でスクリーン数が増えましたが、観客動員数は伸び悩んでいます。映画館はサービス面を充実させ、利益を減らしながら集客している厳しい状況です。現状打破のためにハード面の整備、番組編成、各種キャンペーン、会員制度の充実、デジタル化推進などに取り組んでいます。また、ファンとの‘絆’作りのために、ご当地映画の制作もしています。その一環であるシネマプロットコンペティションは、今年はおそらく1000本以上の応募があると思います。」

Q:シネマプロットコンペティションについてですが、応募作品には年によって傾向があるのでしょうか。

宇田川氏:
この企画がきたときは、付き合いで審査をし始めましたが(笑)、毎年応募が増えて、読むのが楽しいですね。書式が自由ということで、色々な書き方をされていますが、圧倒的にご本人の体験談が多い気がします。

田部井氏:
応募は30代後半から50歳の方が多いです。若い方は、本格的に脚本などを勉強している方以外の応募は少ないですね。

Q:SABU監督のオリジナル作品へのこだわりはあるのでしょうか。

SABU監督:
私は元役者で、脚本を書きながら3番手くらいで演じていれば、そのうち主役をとれるかなと思ってました。当時はつまならい脚本が多くて、「俺なら書ける」と思ってました(笑)。自分で書けば自分のペースでやっていけるので始めました。

Q:元ネタはいつも考えているのでしょうか。

SABU 監督:
ネタはあちこちに転がってますよ。この間北海道に『蟹工船』の宣伝で行ったんですよ。その時迎えに来てくれたスタッフがタクシーの中で「今北海道はすごく良い季節なんですよ」と教えてくれたところ、タクシーの運転手が「明日、雨ですよ」と言ったんです。丁度よさこい祭りもやっている時期で、スタッフが「盛り上がってて、300万人くらいの人が来るんですよ」と言ったら、またタクシーの運転手が「200万人」と言って(笑)。マイナス思考なおっさんが話すタイミングが面白かったです。あと、この会場の場所も面白いですよね。初めて来てびっくりしました。‘SKIPシティ’て名前だから、「どんなシティかな、スキップしようかな」と思って来たんですけど(笑)。

Q:『蟹工船』は小林多喜二の小説が原作ですが、宇田川さんの方から提案をしたのでしょうか。

SABU監督:
はい、2007年にベルリンに半年留学していて、調子に乗って仕事もせずにお金がなかったので、企画をもらって「蟹工船に乗りたいな(笑)」ということで提案を受けました。脚本の第一稿はほとんど原作にぴったり沿って書いたんですが、宇田川さんからもっと私の色を出してほしいと言われてやり直しました。俺の作品は「緊張と笑い」がカラーかなと思うので、流れが不自然にならないよう気をつけながら書き直しました。

宇田川氏:
一番言いたいことさえ持っていれば良いという思いで、SABUさんの味付けでやっていただきました。原作に忠実であった訳ではないですね。‘船’じゃなくても良かったくらいです(笑)。

SABU監督:それは思ったことないですよ(笑)。

Q:『蟹工船』で一番伝えたいメッセージはなんでしょうか。

SABU監督:「最後にもう一度立ち上がる」ということです。

Q:オリジナル企画は映画化されにくいそうですが、どのようにお考えですか。

SABU監督:
80年代は単館劇場が多くて、味のある良い作品がたくさんあったんですが、今は見れなくなってますね。ヨーロッパには日本未公開の作品がいっぱいありますよ。

田部井氏:
よくシネコンの中にミニシアターを作ろうという企画もあるんですが、なかなか実現できませんね。一昨年は春日部名画座という企画で、過去の名作を中高年の方や、若い人にも観てもらいました。

(Report:今井理子)