2009年7月11日土曜日、
2人の監督、マティ・ハラリとアリク・ロベツキによる最新作『バレンティーナの母』が上映され、会場には涙を流す観客がいた。

物語の舞台はイスラエル。
独りで暮らす79歳の女性ポーラは、彼女の世話人としてポーランドの娘バレンティーナと生活を始める。
2人は一気に親しくなっていくが、ポーラはバレンティーナにホロコーストの悲劇的な記憶を打ち明け始め、物語は展開していく。

ユダヤ人によるホロコーストでの悲劇的な過去が、本作では今までにないオリジナルな視点で描かれている。
そして監督の一人、マティ・ハラリが登壇し、観客からの質問に答えてくれた。

Q:この作品が生まれた経緯を教えて下さい。
A:本作はイスラエルで出版された有名な小説が原作です。パートナーであるアリクと脚本を書き、自分たちで気に入って監督しようということになり、完成に至りました。

Q:重いメッセージを含んでいますが、主演のポーラを演じたエセル・コベンスカはイスラエルでどのような女優なのでしょうか。また、キャスティングの理由も教えて下さい。

A:エセルはイスラエルであまり有名ではありませんでした。
エセルはポーランドで生まれ、第二次世界大戦で移住したロシアでは舞台女優として活躍し、ファンができるほどの名声を得ていました。
しかし、戦後の50年代後半、再びイスラエルに移住した後は女優として成功できずに、誰も知らないままに暮らしてきたのです。
イスラエルの映画コミュニティというのは小さく、大体の俳優の名前を知っていることが多いのですが、エセルのことは知りませんでした。オーディションの初日に来てくれたエセルは素晴らしい才能を持ち、私もエセルこそポーラ役にふさわしいという確信がありました。オーディションの初日に出会ったため、今後のオーディションをどうすべきか悩むほどでした。

Q:原作は有名とのことですが、“ホロコーストの生存者”の姿は、現在のイスラエルにおいても社会問題としてあるのでしょうか。

A:はい。それは実際に現在でも、重要な問題です。ホロコーストの生存者は、政府に対して生活保障を要求してこなかったために、貧しい生活を送っているという深刻な問題もあります。それは本作のテーマではありませんが、生存者数もどんどん減少しています。5〜10年後には彼等のストーリーは語られないままになっていくこともまた、問題になってくると思います。
最近では、政府が生活保護を行うという動きがさかんに見られるようになりました。

本作に関する質問は止まず、会場の隅でも、観客の質問に答え続けるマティ監督の姿があった。

(Report:今井理子)