名越先生談:
「こらーる岡山」の山本先生は達人!僕もあんな精神科医になる予定だった!!

6月13日より公開のドキュメンタリー映画『精神』のトークイベント付き一般試写会を開催。上映後に、ソフトな語り口と親しみやすいキャラクターでお茶の間でも人気の精神科医名越康文先生をお招きし、想田和弘監督とのトークイベントを開催いたしました!!
現在、精神科患者数は302万人(通院・入院あわせ、2005年・患者調査)にのぼり、自殺者数は11年連続で3万人超え(原因のトップはうつ病)と、日本で非常に身近な話題・問題となりつつある「心の病」について、映画を通して見えてくる日本人のメンタリティいついて、二人が語りました!

日時:6月9日(火)@スペースFS汐留(港区東新橋1-1-16汐留FSビル3F)
登壇者:想田和弘監督(38)、名越康文さん

想田:作品ご覧になっていかがでしたか?
名越:よく気配なく入って、自然な表情が撮れたなぁと感心しました。あれが、解放病棟の空気感で、においがわかる。精神病棟って独特なリズム、人と人との目線の避け合いみたいなものがあって。それが非常に正確に伝わってきました。僕も昔持っていたクライアントで、すごく大変だった経験があるので、患者さんの独白シーンには呼吸も出来なくなってしまうぐらい、つらいシーンがありました。でも、景色のシーンが絶妙に入っているので、そこで息抜きして。とても丹念に作られてると思いました。
想田:編集には10ヶ月かかりました。撮影には、一人ひとりから許可をとることが条件だったので、診療所にいるみなさんに手当たり次第許可を求めて、十中八九、断られました。で、OKが出たらその場ですぐにカメラを回し始める。その現場では、僕も被写体の方が患者なのかスタッフなのか分からなかったんです。作品の中では、ナレーションもテロップも入れていません。それをするとレッテルを貼ることになるので。
名越:僕は精神科医で経験してるからか、出てくる患者さんの疲れ感を感じた。笑ってるんだけど、今笑わなきゃ次いつ笑えるかっていう疲労感とか、ストレスがリアルなんです。なんでこんなにリアルなのかと思ったときに、それは精神の疲労感が肉体や背景からにじみ出ているからだ。映画に出てくる人、すべての人たちから内面がこぼれ出てくるように見えました。本来の人間の内面の混乱を、はじめて映像に映し出して、見せてくれたんですね。
想田:撮影中ずっと、妻が立ち会って患者さんの話を一緒に聞いてくれていて、感情移入して精神バランスをくずしたことがあったんです。夫としては心配ですが、映画を撮る人間としては、これは面白い!と思いました(笑)。
名越:それは心配しますよね、いや、芸術って残酷やね(笑)。
想田:こらーる岡山の山本先生にアポをとって、そうとう話を聞いてもらったようで、回復しました。
名越:山本先生はすばらしいですね!僕、ああいう精神科医になる予定だったんですがね〜なかなか。患者と同じ時間を生きていて、達人ですね。

<最後にメッセージ>
名越:精神科診療の実態がどうこういうよりも、この映画は人間を描いている。監督の芸術的センスでこういう対象を選んだことも素晴らしい。精神病患者を映しながら、描いているのは人間でした。
想田:最初のタイトルは、精神病だったのですが、編集していく過程で精神になった。(精神は)一人一人が抱えている小宇宙ですが、大宇宙と同じくらいのものかも。でもモヤモヤしていて答えがない。そのモヤモヤした何かについて、私は惹かれたとしか思えないけれど、ここを出発点にして、問うということが大事なのだと思う。