『四川のうた』公開記念「ジャ・ジャンクー特集〜奇跡の軌跡をたどる〜」のスペシャルトークショーを行ないました。

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『四川のうた』公開記念
「ジャ・ジャンクー特集『青の稲妻』&『私たちの十年』」18:25回上映後 
日時:5月29日(金)
場所:ユーロスペース 
ゲスト:藤井省三さん(現代中国文学者/東京大学文学部教授)
聞き手:市山尚三さん(『四川のうた』プロデューサー)
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【トークショーの内容】

市山尚三さん:『青の稲妻』は2001年に撮影されたのですが、当時(現実に)起こっていたことが、そのまま出てきます。
一番印象的なのは、北京オリンピックの開催が決定したという映像が出てきて、みんなが拍手して祝っているところが出てきたりします。

舞台は山西省の大同(ダートン)という地方都市で、そこに生きる若者の姿がそのまま描かれています。
この当時の中国は、社会がすごく揺れ動いた時代だと思うのですが、この大同という地方都市で生きる若者たちにとって、それはどのような形で影響していたのでしょうか? 

藤井省三さん:中国では90年以降、外国資本がどんどん入ってきて、国有企業の大改革が始まります。
それまで国民の財産だった国有企業が、共産党の幹部により私物化され始め、大量の労働者が不当に解雇されて、退職金がもらえなかったりとか、そのようなことが起こります。
大家族のようだった企業、すなわち単位社会が崩壊しゆきます。
それを救おうとしたのが宗教団体なのですが、共産党にとっては脅威ですから禁止してしまいます。

北京や上海といった大都市ですと、外資系がどんどん来ているので、若い人には就職口があります。けれども、大同のような典型的な重工業の都市ですと、そうはゆかない。となると高校を卒業した人にも就職先がなくて、駅前に集まってビリヤードしたり煙草を吸ったりしたり、という全く出口のない状況に追い込まれてゆきます。
あまり良い言い方ではないですが、「負け組みの地方都市の典型的な姿」なのです。

市山さん:(ジャ監督新作の)『四川のうた』について、ですが、藤井先生はどのようなご感想をお持ちになりましたか?

藤井さん:まさにひとつの巨大呼吸工場を舞台に、中華人民共和国の60年の歴史を語っています。
かつて中国は、「工業化社会」(日本でいう「産業化社会」)を目指してがむしゃらでしたが、90年代後半からは北京や上海など都会では「脱工業化」してゆきます。
しかし、田舎は、なかなか脱工業化に切り替えられない。
そういった負け組みの内陸部都市の辛さがよく出ていますね。

市山さん:最後にジャ・ジャンクー監督の最新情報についてですが、2010年4月に開催される「上海エキスポ」の記念映画を頼まれて、準備中だそうです。
今の繁栄する上海の姿などではなく、世界各国にちらばった上海出身者をインタビューしていって、上海人とは何かを探るドキュメンタリーだそうです。
東京にも来るかもしれません。
どんなものが出来上がるか、期待したいところです。