名匠プーピ・アヴァーティ監督(『追憶の旅』『ジャズ・ミー・ブルース』)の最高傑作との呼び声も高い『ジョヴァンナのパパ(原題)』を劇場公開に先がけて、開催中のイタリア映画祭2009にていち早く上映。
これにともない、本作のプレミア上映会と第65回ヴェネチア国際映画祭にて主演男優賞を受賞しましたイタリアの名優シルヴィオ・オルランドのトークショーを、昨日行いました。疲れも見せずに笑顔で質問に答えてくださいました。

Q)撮影中、現場の雰囲気は如何でしたか?
→プーピー・アヴァーティ監督は本作を作るにあたり、自分と娘との関係を元にしていました。
自分が娘とあまり話をしなかったりといった自身の上手く関係を築けなかった反省も踏まえて、本作を作ったようです。
また、本作は舞台を1930〜40年代のファシズムの台頭するボローニャに設定しているが、
センチメンタルなノスタルジーを表に出すことなく描いたと思います。本来彼の作品は軽やかな作品が多いが、
本作はどっしりと重厚で、彼自身の新しい境地を開いたと思います。

Q)今まで色々な監督と仕事をされていますが、プーピー・アヴァーティ監督の演出の特徴はどのようにお考えですか?
→彼はとても変わっていて、普通現場ではビデオコントロールと呼ばれる撮影したものをその場で確認できる
小さなTVがあるのですが、彼はそれを一切使わないんだ。彼がプリントされるまで撮影したものを見ないというリスクを背負うのには、2つ理由があると思う。
  ひとつは、スタッフと俳優を信じているという事。もうひとつは、映画を誰とも共有することなく、自分自身の物であるという主張。
でも彼は、俳優のコントロールがとても上手く、俳優の個性を掴み関係を作るのに長けている。
  俳優にとても気を配る分、休憩時間でも目が光っている感じがして疲れてしまう事がある。けれどやはり彼との仕事はとても面白いよ。
プーピ監督は古風(アンティーク)というか、巨匠と呼ばれる人々のやり方、演出を引きついでいるので素晴らしい監督の一人だけど、例えばダ・ヴィンチやラファエロなど、素晴らしい芸術家の後の世代の同じ分野の芸術家たちが自分たちの独自の道を切り開くのが大変だったように、プーピ監督の後の世代の監督たちも同じように大変だと思う。

Q)主人公の“パパ”に共感できますか?
→主人公は実現不可能な未来を娘に見せてしまい、彼女は人生が変わってしまった。
彼は娘の人生を変えてしまったという十字架を一生背負っていかなければならないのです。
彼は単純でシンプルな人物としてシンボリックですが、イタリアのすべての家族に共通な父親は家族の核であるという伝統を表している。その幻想が子供たちに辛い思いをさせている場合も多いのです。

Q)役作りに関してどのような努力をされましたか?
→私は今までそんなに沢山のタイプの役は演じていないんです。
自分が映画の様々な役にあわせて、カメレオンのように変幻自在な柔軟性を発揮できるとは思ってはいません。
“私にしか出来ない”という役があった時にしか、声がかからないのかもしれません(笑)映画で演じることの一番の醍醐味は、ナンニ・モレッティ、プーピ・アヴァーティなど、面白い監督と仕事が出来ることです。この仕事は繰り返しがなく、様々な環境で作品に愛情を注ぎ、自己破壊などを経験して、沢山の人のおかげで色々な監督と仕事をしてきて商業映画にも参加したけど、どういった作品でも存在意義があると思います。

Q)ナポリという街と自身との関係についてどのように思われますか?
→ナポリは重い課題を背負った街。私はナポリの丘陵地帯出身で市内ではないのですが、ナポリには古い「ナポリ派」とよばれる劇場があって、そこに何年も出演していました。ずっといると、ナポリから出づらくなるものですが、もっと広い世界を見るためにローマに出ました。
でも、イタリア人は皆故郷に帰るので、死ぬときはナポリかな?ナポリを題材にした作品もいつか出演してみたいです。
しかし、現在ナポリは犯罪都市と思われているのがとても残念です。

Q)日本の映画についてどのように思われますか?
→子供の頃はとても人気がありました。特に黒澤監督は映画館だけでなく、テレビでも放映していて全部といってもいいほど沢山観ました。
黒澤監督がイタリアに日本映画を意識付けたといってもいいと思います。

Q)イタリア映画の将来に関してどう思われますか?
→作っても劇場でかかるものは少ないが、今ガローネやパウロ・ソレンティなど、イタリア映画はとても手作り感が強く、職人芸的。監督一人一人が語りたい物語を持っている。
国内でもシェアが増えて30%くらいはイタリア映画。動員数も増えています。
Q)ヴェネチア国際映画祭の主演男優賞は、期待していましたか?
→候補にあがったのは初めてで、受賞自体、運も大きいと思います。
『レスラー』のミッキー・ロークと戦うなんて思いもしなかったよ(笑)20代30代の時に貰うより、今貰うほうがこれまでの道のりは長かったですが、嬉しく思います。

Q)今後、どんな役がやりたいですか?
→いつもオファーの電話が鳴るのを待つのみで、自分から営業をかけるのは好きじゃないんだ。