市の財政破綻によって休止したものの昨年復活し、話題となったゆうばり国際ファンタスティック映画祭。復活2年目となった今年の映画祭も観客動員1万人を超す1万568名の動員数字を記録し、盛況のうちに先日3月2日に閉幕した。エネルギッシュな作品群が勢ぞろいし、自作をたずさえて訪れた監督・俳優ほか映画人その数300名以上!期間中の夕張の町を包んだ活気はまるでみえない炎に包まれているかのように、朝から深夜までずっと熱気でいっぱいの独特の雰囲気を持っている。中でも、群を抜いて観客から人気を集めたのが、オフシアターコンペティション部門(自主制作映画のコンペティション)のグランプリ作品にも選ばれた、入江悠監督の『SR サイタマノラッパー』だ。
3月14日には池袋シネマロサを皮切りに全国での劇場公開も続々と決定している話題作。

ヒップホップを志し、みんなでライブするという夢に向かって生きるサイタマ在住の若者たちの、ちょっとダサくて、かなり純情な、みずみずしい青春映画だ。独特のユーモアで笑わせながら、現代日本の地方都市に漂うリアルな空気感の表現し、距離的には近いようでいて、精神的にはだいぶ遠い東京への憧れを抱きつつ、ラップでなんとか自己表現をしようともがく主人公たちの姿は、誰もが昔経験したことのあるせつない青春のあがきを思い出させ、胸を熱くさせる。
映画祭会場には監督の入江悠をはじめ、主人公のラッパーたちを演じた俳優陣も勢ぞろい。スキー場での雪上フォトセッション、ゆうばり映画祭名物でもある野外でのストーブパーティ(BBQ)、また視察に訪れた小池百合子さんと即興セッションするなど、期間中のいたるところでラップを繰り広げ観客の注目を集めた。

グランプリ受賞式では、審査委員長の高橋伴明監督から「青春映画といっても、予定調和になっていない新しさを提示した作品。一番次回作を観たいと思える監督」と激賞を受けた。監督自身は、ゆうばり映画祭のオフシアターコンペでの上映は実は今回が3度目。以前は上映時に審査員から酷評されたこともあり、その悔しさがその後の活動へのバネになっていたという。「どうやって今後映画を作っていこうか、わからなくなっていた時期もあり、最後の作品になるかもしれないと思っていて作った作品。最後だったら思いっきり自分が好きなヒップホップを映画にしてみようと作った」と語るだけあって、今回の受賞は監督にとっても運命のグランプリといえるのではないだろうか。実に5年ぶりの夕張でようやく監督のソウルが夕張に届き、輝けるグランプリのトロフィーを手に入れることとなった。
入江悠監督には特製トロフィーと夕張メロンのほか、副賞としてスカパー!から次回作制作支援金200万円が授与されている。この制作支援金で作られた新作が、来年以降のゆうばり映画祭で新作が招待作品として上映されることもすでに決定している。ラッパーの次はどんな新作になるのか、今後も入江監督とゆうばりから目が離せない。

公式サイトでは最新情報ほか、動画コンテンツ、ブログなど随時更新中
■「SR サイタマノラッパー」公式サイト
http://www.sr-movie.com/

ゆうばりでのこんなミラクルなワンシーンも掲載されてます!

(Report:綿野かおり)