『長江哀歌』でヴェネチア国際映画祭グランプリを受賞した中国の若き巨匠ジャ・ジャンクー(賈樟柯)監督が、新作『四川のうた』(2008年カンヌ国際映画祭コンペティション部門 正式上映作品)の公開を記念し、5日(木)東京・渋谷にて来日会見を行いました。

Q:邦題にもなっているように、イギリスのイェイツの詩や、流行歌や古典詩、山口百恵さんの楽曲についてのエピソードなど、たくさんの“うた”が使用されていますね。

ジャ・ジャンクー監督
『四川のうた』は、1950年代から現代に至るまでの50年間で、中国社会が経てきた計画経済から市場経済への過渡期という、人々の生活環境が移り変わるときに、中国の一般庶民がどのような影響を受け、どのように暮らしてきたかを見つめた物語です。

流行歌がこの作品の中にはいくつか登場しますが、それは中国の社会の変遷の中の記憶の1つです。また、歌だけではなく、映画の中でポートレイト的な撮影を試みました。毎回、取材をした人に肖像画を撮るように、長く静止画面で彼らの姿を収めました。このことにより、儀式めいた感じにもなっていますが、これは僕の労働者の方々に対する尊重の気持ち、尊厳でもあります。

今回の作品は、取材を受ける人々の“言葉”に依る部分も大きいのですが、イェイツの詩や、成都出身の詩人の詩、半野喜弘さんや台湾のリン・チャンの楽曲など、色々なものを効果的な手法として取り込んでいます。それが何に呼応しているかというと僕の切り取った中国の歴史の一部分の複雑さに呼応していると思います。

Q:世界的に、そして日本でも大規模なリストラや大量解雇のニュースが続々と流れています。本作は、偶然にも中国の国営工場が閉鎖されていく様子が描かれていますが、日本の観客にどのように、この作品を観てほしいですか?

ジャ・ジャンクー監督
この作品を撮ることに、宿命的なもの、運命的なものを感じました。昨年のカンヌ国際映画祭に出品したのですが、映画祭の直前(2008年5月12日)に四川省で地震が起こりました。そして、今年になり、世界のあちこちでこの映画を上映する時期に、金融危機が起こっています。今朝、日本の方から聞いたのですが、日本の大手企業でも大量解雇が決まったということで、とても複雑な思いです。

文化も歴史も違うそれぞれの国が、過去そして未来、さまざまな時代に異なる場所で金融危機や政治問題など、色々な危機に直面すると思います。そんな時に、中国という体制の中で生きてきた人々が、そこから放り出され、初めて自分自身というものを頼って、自我を頼って、もう一度たくましく生きる、そして生き直していくところを、希望を持って観てほしいと私は思います。