ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーがクリント・イーストウッド監督の映画『チェンジリング』で来日記者会見を行った。会場は取材陣およそ300名が集まり超満員だ。

物語の舞台は1928年ロサンゼルスで息子が突然行方不明になる。警察が発見し、感動の対面となるはずが、その少年は息子とは別人だった。本当の息子を探し続ける実話をもとにした映画だ。アンジーは逆境に息子への愛情で立ち向かう強い母を熱演している。
アンジーは実生活でも母親である。今回の来日は夫のブラッド・ピットと子供達も一緒だ。

アンジーは2008年をこう振り返る。「私と夫にとってすばらしい一年でした。二人の間に健康な双子が生まれたし、とても良い映画に出ることができました。時間をかけて、ハートを込めて映画作りに臨んでいました。二人同時にアカデミー賞にノミネートされて、嬉しい限りです。でも子供達に映画のことはあまり話しません。子供達は(声の出演をしたアニメ映画の)『カンフー・パンダ』しか出てないと思っているんじゃないかしら。」と微笑む姿は母親そのものだ。「もしすべてを失っても子供達さえ健康で幸せなら、私は幸せですね。」と子供への愛情を包み隠さずに語る。

しかし、“本作に向けて自分で準備したことは?”という質問を受けると女優の顔に変わった。「色々残っている資料を見ましたが、実は私の母親に似ています。いつもは優しい母親ですが、ただし子供を守るための強さを秘めていました。実はブラッドがこの映画を見たときに、私の母は2年前に亡くなっていますが、彼は生前の母を知っていて、すごく母に似ていると言っていました。撮影中、常にハンドバックの中に母の写真を入れていました。」

アンジーは自分の役柄を「自分の子供への愛情、子供の喪失と同時に正義を貫き、彼女の運動が制度さえ変えてしまう非常にユニークな女性です。この時代に一人の女性が何もできないと思われていたときに腐敗していた制度を変えてしまった。そして彼女のおかげで法律が変わり、他の女性の立場も非常によくなりました。彼女は私の中でヒーローですね。」と強いまなざしで語った。また、国連難民高等弁務官事務所の親善大使でもあるアンジーは「緒方(貞子)さんも私にとってヒーロー」と語り、北朝鮮の拉致問題にも興味を示した。

また、演技では感情を表現する計算が重要だったと語る。「今回苦労したところは、この女性は最初と最後では別人になっていることです。挫折と成長を繰り返します。強さを取り戻しても2倍つらい挫折を味わいます。彼女の精神的な強さと弱さを計算しながら演じました。」アクションができるアンジーだが、本作では演技派女優でもあることを再確認することになりそうだ。

『ミスティック・リバー』など手掛けた巨匠、クリント・イーストウッド監督と仕事することは「少女のように喜んでしまいました。」とはにかむ。「決断の早い監督でした。話がしたいと言うと、今この場でしようと言ってくれて、数分後には解決しているんです。しかも笑顔で!」と監督への賛辞を惜しまない。

本作の魅力を「無力だと思われていた一人の女性がこれだけのことができる。私達にも勇気を与えてくれる作品です。」と自信を表した。
一人の人間であり、女性であり、そして母親であるアンジーの多面性、特に子供への強い愛情は、本作の強い母親像とぴったり重なった。本作の魅力をたっぷりと語ることで、アンジーの魅力も浮き彫りとなった記者会見となった。

(Report:Hiromi Kato)