幸福な結婚式。
だが、この花嫁にとってはうれしくもとても悲しい一日になる。

映画『シリアの花嫁』の舞台は、イスラエル占領下のゴラン高原。若き娘モナがシリア側へ嫁いでゆく一日の物語。一度境界を越えてしまうと、もう二度と愛する家族のもとへは帰れない。それでも女たちは未来を信じ、国境を越えていく。

中東の複雑な背景を、シリア側へ嫁いでいく花嫁とその家族に焦点を当てて描いた映画『シリアの花嫁』が、日本では2月21日より岩波ホールにてロードショーされることが決定し、それを受けて監督のエラン・リクリスが来日を果たした。

本作は、監督のドキュメンタリー「BORDERS(ボーダーズ)」の中で映し出された、ゴラン高原に暮らすある花嫁の結婚式のエピソードから発想を得たそうで、監督は「この結婚式はとても悲しい。イスラエルの花嫁はシリアに嫁いでしまうと二度と戻れなくなるからね。いろいろな手続きの問題でキャンセルになってしまうことだってある。この問題を私は追いかけようと思ったんだ」と語った。

日本人には少し理解しにくい問題が起こっている中東の話だが、「こういった中東の知識がなくても結婚式を題材にしたので、この花嫁と家族に共感できる部分はたくさんあると思う。それに、どこに住んでいたとしてもみんな何かしら政治的問題を抱えて生きているんじゃないかな?」と、監督は言う。

「叫びの丘」と呼ばれる場所に立ち、境界線の向こう側にいる家族に拡声器を使って近況や無事を確認しあう者たち。このような国境問題について、「私はけっこう楽天的に考えているんだ。オバマが当選したせいかもしれないね(笑)」と、意外にもユーモアを織り交ぜた明るい返答。そして、「もうじきイスラエルでも選挙がある。とにかくみんな疲れきっているけれど、無関心が一番怖いこと。イスラエル問題については、私は若い世代に希望を持っているんだ。何か新しい変化が起こせるんじゃないかと思ってね」と、瞳を輝かせた。

本作は結婚式当日に宗教や、伝統、そしてしきたり・・・あらゆる境界線に翻弄される家族たちの話ではあるが、監督自身は場所などは関係なく、ただ「ありのままの人間を自分の目線で語りたかった」のだそう。そして、「メディアは限られた情報しか出さないので、映画を通してメディアを超えた情報を伝えていきたい」と意気込んだ。

本作は、モントリオール世界映画祭グランプリ、観客賞、国際批評家連盟賞、エキュメニカル賞の4冠受賞という快挙を成し遂げている。

(Report:Naomi Kanno)