10月28日(火)に、ドイツ文化センターにて、『帝国オーケストラ ディレクターズカット版』のパネルディスカッション付試写会イベントが行われました。

11月1日(土)より 渋谷・ユーロスペースにて公開となる『帝国オーケストラ ディレクターズカット版』は、ヒトラー政権下、首席指揮者フルトヴェングラー率いるベルリン・フィルとナチスの関係を、当時の映像記録と元楽団員へのインタビューで解き明かすドキュメンタリー映画です。演奏家の苦悩と葛藤が、現代を生きる私達に「もしも彼らの立場だったらどうしただろうか」という疑問を投げかける作品となっています。

10月28日(火)のイベント当日は、本編上映後にパネルディスカッションを開催し、パネラーとして『帝国オーケストラ』監督のエンリケ・サンチェス=ランチ氏、ドイツ文学者の池内紀氏、ジャーナリストの江川紹子氏、音楽評論家の長木誠司氏が登壇し、ドイツ文化センター所長のウーヴェ・シュメルター氏の司会のもと、意見を交わしました。終盤には客席の中からも鋭い質問が飛び、参加した一般の観客や関係者にとっても、政治と芸術の関係を考えるよい機会となったようです。

■ディスカッション内容■

冒頭で監督は、なぜ今、ナチス政権時代のベルリン・フィルの映画を撮ったか語りだした。オーケストラの調査の中で、ナチス時代の資料がまったくない事に気づき、さらに調査を続けていくと当時のメンバーは2人健在だが高齢で、親族などの関係者を探すのに苦労した。もっと早くにやっていればと思ったが、事実を知る人が語るには60年間という時間が必要であったことを認識したという。戦後の年月と同オーケストラの125周年の歴史との因果を感じる発言であった。

続いて、パネリストにより、「記憶しよう」という文化を持つドイツと「記憶を消す」文化を持つ日本と、双方の国民性の違いから日本のこの種のドキュメンタリーの不在について語られた。また当時ベルリン・フィルの団員であることで特権を得ていた楽団員に対しては、無自覚であったがゆえにプロパガンダに加担するのも仕方が無かったという意見がある一方で、客席からは「のんきだ」というような意見も出た。

ナチ党傘下の労働党は「喜びを通して力をだす」を標語にキャンペーンを行い、音楽などを国家が補助をして奨励した背景があることが説明され、ナチスの若者扇動を例に、ベルリン・フィルは無自覚にプロパガンダの機能を果たしていて、客観的な視点に立ったときには既に遅かったと思う、という意見も出た。

客席からの「そんな状況で本当に音楽という芸術がおこなわれていたのか」という質問に、監督は「クラシック音楽のように、過去の音楽を解釈することで生み出されるこうした芸術は、各時代で解釈の仕方が異なるため抽象的なものです。映画などと違ってそのままその時代を反映しません。演奏する曲目には時代背景を反映した偏りが見られますが、それでもこの時代に行われた演奏はすばらしいものです。」と答えた。

<映画概要>
タイトル:『帝国オーケストラ ディレクターズカット版』
公開日:2008年11月1日(土) 渋谷・ユーロスペース 他全国順次公開
<監督による初日舞台挨拶有り> 12:00の回終了後、 14:15の回上映前。
監督:エンリケ・サンチェス=ランチ (『ベルリン・フィルと子どもたち』ほか)