黒沢明監督作品の中でも世界から最も注目を集め、<世界のクロサワ>の異名を不動のものとした代表作『羅生門』がデジタル完全版となってスクリーンに帰ってきた。
第21回東京国際映画祭も残り2日となった25日。
Bunkamuraオーチャードホール内を埋め尽くす観客の中、『羅生門』のスクリプターを務めた野上照代、復元を手がけたマイケル・ポゴゼルスキーが登壇し、特別ゲストとして同映画祭の国際審査委員長を務め、大の黒沢映画ファンのジョン・ヴォイトも舞台挨拶に駆けつけた。

あまりにも有名な本作『羅生門』は、1951年第12回ヴェネチア映画祭のグランプリ、翌年第24回アカデミー賞名誉賞(最優秀外国語映画賞)を受賞し、製作から58年経った今もなお多くの映画人に影響を与え続けている。
この度のデジタル化について、当時スクリプターとして黒沢映画を支えた野上照代は、「なんとういう幸運!この作品は作ったときから沢山の奇跡を起こしてきました。58年も前の映画なのに、この度マイケルさんのお力で新品同様に素晴らしく復元されました。マイケルさんをはじめ、アカデミー協会の方々に本当に感謝しています」と述べ、「黒沢映画は台詞が聞こえにくいことで有名ですけど、こんなにはっきり聞こえるなんて!(笑)黒沢さんにも見せたかったです」と冗談を交え語った。

修復統括指揮を執った、米映画芸術科学アカデミーのマイケル・ポゴゼルスキー氏も、「この仕事をさせて頂き、本当に光栄に感じています。アカデミーを代表してお礼を申し上げます」と、感謝と喜びを語った。

黒澤明監督原作の『暴走機関車』に主演したジョン・ヴォイトは、本作がデジタル化・公開されることについて、「今日この場に立つことができたのは、私にとって大きな喜びであり、光栄に思います」と延べ、「私が俳優になると決断する前に、LIFE誌の表紙に『羅生門』のワンシーンが載ってるのを見つけ、体に稲妻が落ちたような衝撃を覚えました。特別な場所に保管して、何度も見た思い出があります。
映画が素晴らしいと思うのは、世界中どこにいても人々に影響を与え、その人の人生を変える力を持っていることです。黒沢監督をはじめ三船敏郎さんのような名優の演技は私自身の演技にも多大な影響を与えました。今日ここに来て、黒沢監督や三船さんのご家族にもお会いできて本当に嬉しい。自分の家族の一員のように感じる」と感慨深く想いを語ったヴォイトは、
最後に「僕達似てるでしょ(笑)?」と野上に顔をすり寄せ、無邪気な一面も見せた。

(Report:Inoue Midori)