第21回東京国際映画祭 コンペティション部門『オーシャン』。
キューバ人にとって生活そのものであるという「海」を背景に、無限に広がる庶民の情熱を描いた『オーシャン』ミハイル・コズィリョフ・ネステロ監督をお迎えして、ティーチインと記者会見が行われました。

■ 日付 10月21日(火)
■ ティーチイン 12:27〜 (TOHO シネマズ六本木ヒルズScreen 1)
■ 記者会見 13:10〜 (ムービーカフェ)
■ 登壇者 ミハイル・コズィリョフ・ネステロフ(監督)

質問:さっそくですが、キューバを選んだ理由と、大変躍動的な海を題材にした映画ですが、撮影中のエピソードがあれば教えてください。

監督:私が監督兼プロデューサーとして総指揮を取っていましたし、撮影現場にはキューバの保安警察が付いていましたから、これといった事件は起きませんでした。何故キューバなのかということですが、まず、現在のロシアでは人間関係というものが非常に変わってしまい、私が描きたかった家族の関係は、ロシアではあまり見られなくなってしまいました。それが残っているのがキューバだったわけです。設定がロシアであったら、誰も観たくないような暗い話になってしまったかもしれません。直前にインドでドキュメンタリーを撮影していたのですが、そこも『オーシャン』には相応しくないと感じました。

質問:全編手持ちカメラでの撮影だったと思いますが、どのような効果を狙っていたのでしょうか。また、特に故郷の村のシーンなど、常に波の音が高いレベルで入っていましたが、これは意図的なことだったのでしょうか。

監督:登場人物やその場に生じたエモーションをそのまま捕らえたいという理由から、手持ちカメラにしました。また、演出についても、同じ理由で事前にカット割りをしませんでした。海のそばのシーンですから海の音がしていて当然で、原則として録音は同時録音した音だけを使いました。それから言葉づかいの問題もありました。例えば、大騒ぎするようなシーンでは、大体の台詞の準備はしていたのですが、役者側からこのようなことは日常茶飯事だから台本はいらないと言われました。彼らが使っているのはキューバ訛りのスペイン語ですが、シーンによっては脚本には書けないようなハバナ独特のスラングもあって、アフレコするのは難しいという判断もありました。

質問:撮影クルーも現地の人たちを起用したのでしょうか。

監督:キューバ人とロシア人との共同作業でした。特にキューバ側のエグゼクティブプロデューサーが、きちっと仕事をやってくれたので助かりました。非常に身体の大きい人で、殺されるのではと思うこともありましたけどね!

質問:旧共産圏ということで、ロシアとキューバの映画界の間に強いつながりがあるのでしょうか?

監督:ソ連時代は関係があったのですが、実はこの25年間ロシアとキューバの合作映画というものはつくられていませんでした。つまり、『オーシャン』が25年ぶりのロシアとキューバの合作です。ソ連はキューバに対して非常に罪深いことをしたと思います。例えば、キューバでは、ひとつの契約や一枚の書類を通すのにも、何人もの官僚のサインが必要でした。文句を言うと、「これはあなた方が持ち込んだ官僚主義ですよ」と言われてしまいました。現在ロシアでは随分とその辺りのことが緩和されて来たと思います。

質問:将来的な計画や夢、今後撮りたい映画があれば教えてください。また、国内・海外ロケについて制約はあるのでしょうか?

監督:次にどうするかは決めていません。ご存じのように世界的な金融危機に見舞われていて、ロシアでは180本くらいの映画プロジェクトがストップしています。私はその前に映画を完成し、皆さんに見ていただけることができてラッキーだったと思います。

質問:ロシアの若手を育てるといったことに関心はありますか?

監督:「感情が詩をつくる」という有名なロシアの詩人プーシキンの言葉があります。芸術は二つのものを対立させるのではなく、愛を作り出すものです。若い監督たちにもそのような融和を見出してほしいと考えています。