財政破綻により一旦休止していた「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」が、市から市民が運営を引き継ぐ自主開催の形で今年3月復活したのは記憶に新しい。
冬の映画祭だけじゃなく年間を通して若いクリエイターたちを応援すべく映画祭事務局が今回企画したのが、夕張での映画のワークショップだ。それもただのワークショップじゃない。
多くの日本映画で特殊メイク・造型、特技監督をつとめてきた西村喜廣を講師に迎え、血糊の作り方から、傷・アザメイク、弾着や火炎放射器の解説から、大掛かりな頭部爆破、血の噴出しなど、まるで前代未聞の泣く子も黙る、「特撮!シネマワークショップ合宿」なのだった。しかも2泊3日の泊り込み。
ラテックス(乾くとゴムになる)とカット綿、ドーランを使用した傷メイクの特殊メイクの基本から実習はスタートし、応用としてポンプをつかって傷口からの血の噴出し原理や、『L change the world』に登場するウイルスメイクをシリコンとアイブラッド(目から血を流す目薬)を使用して再現。
爆破実習では、受講生ひとりひとりが自分で作った弾着を実際に着弾して、血糊を併用して破裂させてみるなどかなり刺激的なところまで踏み込んでいた。
ダミーヘッドを使って、中に血糊と弾着を仕込んだ頭部爆破では拍手が巻き起こった。また、『片腕マシンガール』で使用した腕からの血の噴出しシーンも受講生総出で再現し、夕張の合宿所の校庭を面白いくらいに真っ赤に染めあげていた。

また、今秋に劇場公開される西村監督による『東京残酷警察』の日本最速上映も受講プログラムとして行われ、世界各国の映画祭を熱狂に陥れた、現・日本映画で最強&最高のファンタスティック映画を堪能した。

参加した受講生は東京と札幌から6名。クリエイターとしての西村の技術や映画の裏側をナマで観たいとう映画ファンもいれば、映画サークルでまさにゾンビ映画を制作中の大学生、休暇をとって参加してくれた自衛官の方など超個性的な面々が集まった。「クローネンバーグの『ヒストリー・オブ・バイオレンス』のメイキングにコンドームを使った弾着の作り方と使い方をその道のプロである西村さんに直接教えていただけて嬉しかった」、「来年のオフシアターに出せる作品を作りたい」「いろんな技術だけでなく、その技術をいかに映画に使っていくか、という点まで教えていただけたのはとても勉強になった」と受講生も今後に向けて意気揚々。

まさに、夕張という広大な土地ならではのゆうばり映画祭ワークショップとなった。
「いままでに韓国のプチョン映画祭や色んなところでワークショップをやってきたけれど、今回みたいに色んなことを教えたのは初めて。夕張じゃなければできなかったね、面白かった!」と講師の西村。
自主制作した映画『限界人口係数』が96年のゆうばり映画祭のオフシアター部門で特別賞を受賞して以降、夕張ロケ作品を地元市民と作り上げたり、映画祭には毎年訪れる常連の西村は、夕張に人一倍愛着をもつ映画人のひとり。また、その『限界人口係数』が自身の集大成的意味合いの強い最新作『東京残酷警察』の原型になっていることもあり、まさにゆうばり映画祭とともに成長してきたクリエイター。
今回のこうしたワークショップをきっかけに、夕張から更なる才能が伸びてゆくことを期待したい。