中田:阪本監督はキャストの方たちと密にコミュニケーションをはかるというイメージがありますが、今回はキャストの方とどんな話を具体的になさっていたんですか。
阪本:脚本をまず4人の方にお送りして、出てもらえるかという返事を待っていたんですけど、後から聞いた話なんですが、江口くんは2週間ぐらい悩んだと。それはさっきも言いましたがこの映画に出たら自分のイメージが壊れるという意味ではなくて、この主役をどうやって担えばいいんだろうとうことで悩んでいたそうです。宮?あおいさんは出演が決まってから彼女に「どうしてこの役を引き受けてくれたの?」と聞いたら、「私はもともと子供の人権に興味がありますから。」その一言でしたし、でも逆に妻夫木くんは僕に断るつもりで会いに来て、「救いがなさすぎませんか?」と言われ、「いや、簡単に救えないんだよ」という話を30分くらいした後に「わかりました、やります。」ということで決めて頂いて・・・。

八代:役柄を彷彿とさせる出来事ですね。撮影の合間大変なご苦労があったと思うんですが、体調面の管理だけではなく、伺ったところでは阪本監督の撮影以前に、このテーマを扱って撮影をしていたドイツ人のクルーが、現地のマフィアの脅しにあって帰らざるをえなかったという話を聞いたんですけれど、監督ご自身もスタッフの安全管理や、撮影中に何らかの脅威を感じたりはされたのでしょうか。
阪本:撮影前にそのドイツ人がピストルで脅されて撮影を断念したと書物で読んだ時には、背筋がぞっとしたんです。その時プロデューサーの判断で、だらだら撮影をしていたら情報がもれるということで、できるだけ能率よく撮り、できるだけすばやく撮って日本に戻りましょうということを決めました。また、考えればマフィアがなぜ存在するかというと、買う人間がいるからマフィアが存在するわけで、マフィアが怖いとかそういう気持ちはあったんですけど、なんでこのマフィアがいるかと思うと、なんとなく自分の中で納得がいったというか、怖がっても仕方がないという思いでしたね。

八代:まさに買う側がいるからマフィアがそこに群がってくるのだと思うのですが、この映画のテーマとしてはペドファイルそして臓器売買。ペドファイルという言葉は皆さんに馴染みのない言葉だと思いますし、ほとんどの方はできれば知らないでいたいということでもあるかもしれませんが、前面に出てくるタイ人の子役と監督がどうコミュニケーションをとったのか、そして、どういう風にして演技の指導、演出を行われたのでしょうか。
阪本:そうですね。まず脚本を書く段階で2つ気をつけなければいけないと思いました。1つは日本国内での話だといくらでもけんかもできるし、質問があればすぐ返せるんですけど、他国でロケをする場合、今回はタイですがタイの人たちを傷つけることにはならないか、ということ。タイの実情を暴くのが目的ではない、タイのマフィアを断罪するのが目的ではない。そしてもう1つは、原作もそうなんですけど、子供たちが虐待される様を映画で伏せてはいけないということ。何が行われているのかを、あからさまにしなければいけないという時に、タイの子役の子供たちとどう向き合ってどう納得してやってもらうか。撮影の時のケアについて、今まだご覧頂いていない方を前に先に言うと、映画の衝撃を奪われるのであまり言えないんですが、現場は完璧にしたんですが、それ以前にオーディションで100人の子供たち会って最終的に残したのは売春婦という職業を理解できる子です。それからもう1つ、これが自分の国で実際にあることでそれを再現するんだ。その為の役者として参加するということが8歳〜10歳でわかる子。それと、大人を見返す強い眼差しを持っている子。そういう風に狭めていって、最終的に彼ら彼女たちが「わかった」と言ってくれた上で撮影を始めたということですね。

八代:タイの人にどう理解してもらうか。そして、監督が先ほど言われた単にタイの現状を告発するのではない。そして、決してこれを体感できることではないですが、先進国が大きく関わっている問題だということを示す為に、是非みなさんも映画の中でもご覧になって頂きたいのですが、タイの子供たちの眼差しの強さですよね。非常に強い眼差しをもって見返している。そして、もう1つ私たち自身の問題として考えなければいけないことですが少なからず日本人が関与しているということです。
阪本:調べていく中でとてもショックだったのは、NGOの方に色々話を聞きますと、タイの政府は今非常に取締りが厳しくなりまして、以前はタイの国内で少数民族の貧しい子供が調達(いやな言い方ですが)されたんですが、今は取締りが厳しくなって結局海外から連れてくるわけですよ。ミャンマー、カンボジア、ベトナム・・・そうするとタイ語もわからないわけですよね。そしてそのまま騙されて売春宿に入れられて・・・。それで、例えば保護をして親元をつきとめて返すとなった時、また売られる可能性があるので、もし最悪また売られた時の為に言葉だけ教えてあげる。その言葉は“お金を下さい” “コンドームをつけてください” “暴力を振るわないで下さい”この3つをタイ語、英語、フランス語、ドイツ語、日本語で教えるっていうことですよ。それぐらいアジアの中でも圧倒的に日本人が買いに行ってるわけですよね。今ネットで調べると、もうタイは難しいから中国に行くらしいですね。

八代:日本人も他人事では無いということを、映画をご覧になって感想を持っていただけるといいですね。
阪本:キャストはほんとに豪華なんですけど、昨今の流行の映画に乗っかった作品ではないので、是非観終わって気に入って頂ければ応援をして下さい。よろしくお願い致します。本日はありがとうございました。