2008年7月21日(月・祝)、早稲田のニューシネマワークショップ(NCW)において特別セミナー「プロデューサーってこんなにスゴい!!」を開催致しました。
これは、10月から始まるNCWの[第2期]映画プロデューサーコースのプレイベントとして企画されたもので、講師には、北野武監督作品のプロデューサーでオフィス北野代表取締役の森昌行氏と、映画プロデューサーコースのディレクターでもある映画プロデューサーの河井信哉氏をお迎えし、NCW主宰の武藤起一が進行役を務めました。
北野武という世界で高く評価されている“作家”の映画を一貫してプロデュースしている森氏と、フジテレビの大作から単館系映画まで非常に幅広くプロデュースしてきた河井氏。全くスタンスの異なる2人から、各々のプロデュースの大変さ、難しさ、そして資金を回収していくための戦略や苦労を語ってもらいました。
最後に森氏は北野武監督最新作『アキレスと亀』(9月公開)にかける強い思いを語り、2時間余りに及ぶセミナーは終了しました。

また、NCW第2期映画プロデューサーコース(10月開講)は現在申込受付中です。

< 概要 >

 7月21日(月・祝)14:00〜16:00
 会場:ニューシネマワークショップ   

■ 講師
 森 昌行(映画プロデューサー/オフィス北野 代表取締役)
     『ソナチネ』『HANA-BI』『座頭市』『監督・ばんざい!』
     『アキレスと亀』
 
 河井信哉(映画プロデューサー/NCW映画プロデューサーコース・ディレクター)
     『スワロウテイル』『リング』『Jam Films』『手紙』

■ 進行
武藤起一(NCW主宰)

武藤:森さんは、北野武作品をずーっとプロデュースし続けてきたわけですけど。

森:監督・北野武が正当に評価されるには『HANA-BI』まで待たなきゃいけなかったんですよね。それまではビートたけしが撮った映画という見方しかされなかった。
その間にも海外の映画祭に呼ばれるようになって、ヨーロッパ中心ですが海外のマーケットで映画が売れ始めるようになった。海外マーケットで売れるという事で、大してもうけにはなっていないんですけれども、監督も我々もモチベーションだけは持続して、企業からの出資という幸運も相まって、なんとか今まで作り続けて来れました。

武藤:プロデューサーの役割として興行的に成功させなくてはいけないという側面もありますが。

森:ヒットしないよりはヒットした方がいいとは思ってます。けど映画の資金というのは、少なくとも損しないで、掛かった費用を回収さえできれば、またその同じ資金を企業に出してもらえるんじゃないかと。そのまた次もこれの繰り返しで。
何も残らないように見えますが確実に作品は残ります。今は大ヒットしなくても、死後に評価されるかも知れない。そんな長いスパンで作品を見ています。それと知的財産を残すという意味もありますし。
“作家主義”を選んだ時点で興行的に苦しむというのは必然ですから、作家主義で行くオフィス北野の映画作りの最大のテーマはリクープメント(回収)です。
もちろん回収できずに持ち出しでカバーした作品もありますが、そうした場合はビートたけしのプロモーション費と考えています。
けど作家主義はやっぱりつらいです(笑)。

河井:僕も作家性が強い監督として、岩井俊二監督と5年で『スワロウテイル』まで4本の作品を一緒にやりました。『スワロウテイル』がヒットして、次はもっと大きな規模でやろうと、『スワロウテイル』の資金の2倍を集めましたが、結果的にはできませんでした。そこで岩井監督の方から出てきたのが『リリィ・シュシュのすべて』だったんですけど、シナリオを読む限り回収はむずかしいなあと。出来た映画を見たらクオリティはすばらしかったけど、興行的にはやっぱり厳しかったですね。

武藤:『HANA-BI』がベネチアでグランプリを獲ったということが、北野武の映画にとって大きなポイントだと思うんですが、興行的にもかなり成功しましたよね?

森:興行的にといいますと、もちろんリクープはできたのですが、あの当時我々の作る映画というのは、ちょうどシネコンが出来始めた時期だったのですが、自分たちが配給を始めたばっかりということもあって上映されたのは全国で約60館。
いわゆるミニシアターと言われるアートハウス系のチェーンで組んで、それで半年間くらいの上映だったのでリクープできたのかな。なので、決して大ヒットではないと。

武藤: 今はそれから10年経っていますけど、日本においては映画祭の威光というのは下がってしまい、映画祭で賞をとった位では興行は難しいと?

森: ほとんど関係ないのと、10年位前にあったアートハウス系のミニシアターのチェーンが完全に崩壊して、今はシネコンにとって代わられてる。それはいいか悪いではなくて、現実の問題として。そうすると、半年間の上映なんてまず不可能に近いというか。
間口は商業主義的なもので全然かまわないし、我々はそういう映画があるから逆に映画が作れていると思っているんですけど、マーケットは実はフェアなようでフェアじゃないんですよね。
だから作家主義的な人たちっていうか、インディペンデントでやってる人たちって、この状態が続くとどんどん作れなくなっていく。作家のニオイのするものが劇場でかからないっていうと、どんどんやりづらくなる一方っていう危惧はありますよね。

河井:テレビはわりと一方通行で向こうから勝手にくるけど、映画は観客にとって自分から探すことができるメディアなんですよ。それが今は、どうしてもシネコンが増えたせいで、当たるためには土曜の1回目にどれだけ客が来るかっていうのだけで決まっちゃう。本来映画と観客のいい関係っていうのは、自分でよさそうだなって、ニオイをかぎつける。
極端な例ですけど、20年ほど前に自分が買い付けてシネスイッチ銀座で単館公開した『ニューシネマパラダイス』は、あそこで40週間上映やってたと思うんですけど、一番客が少なかったのが1週目、一番多かったのは最終週っていう。
それは今はありえないことで。やっぱり映画は観客が自分で見つけてヒットするっていうのが一番幸せなんですよね。

武藤:でも今でも、クオリティが高ければ作家性が強くてもビジネス的にダメだとは言い切れないでは?

森:量としての価値をめざす事も、質としての価値をめざす事も、どちらも価値として大切だと思います。もちろん量と質をかね備えてるのが一番望ましいが、価値観の多様化している現代でそれはなかなか難しい事になってきています。
これからプロデューサーをめざす人たちに言いたいのは、どちらにしても、これからの時代は様々なメディアに精通していなければなりません。ソフトビジネスという大きな枠組みの中でインターナショナルな目線を持つ事が大事だと思います。
そして映画の将来はプロデューサーにかかっています。優秀な監督を世に出すにはプロデューサーがいなければならないのですから。