大好きな父と母の突然の離婚に戸惑いながらも、しっかり者の母より、囲碁の才能以外は何も持っていない父<リウ>について行くことを決めたチュアン。“碁聖”と呼ばれるリウはチュアンにとって自慢の父なのだが、リウは別れた妻から「絶対に息子には囲碁なんてやらせないで。あなたみたいにどうしようもない人間になるわ」と釘を刺されていた。何も言い返せなかったために妻との約束を守ろうとするのだが、チュアンはリウも全く予測していなかった驚くべき囲碁の才能を持っていた──。

『囲碁王とその息子』上映後は多くの拍手に導かれるように本作の監督チョウ・ウェイと、出演者スン・ソン、ワン・チョンヤンが笑顔で登壇。特に父<リウ>を演じたスン・ソンは、「日本は2度目になるが、今回は親子を演じた子役のワン・チョンヤンと一緒に来日できてとてもうれしい」と優しくほほ笑み、息子<チュアン>役のワン・チョンヤンも、「この映画祭にお招きいただき光栄です。皆さんにこの映画を観ていただいてとてもうれしい。僕は今回が初来日となりましたが、次回来日したときにはぜひ富士山に行ってみたいです!」と瞳を輝かせた。

その二人が演じるのはタイトル通り、囲碁王とその息子。囲碁を題材にした映画というと、若者はもちろん、囲碁を知らない人にとっては少し退屈な映画なのでは……?と思わず思ってしまうのだが、観客からは「親子愛を軸に物語がしっかり組まれていて、囲碁を知らなくてもとても楽しめる内容でした」という感想も飛び出し、監督もうれしそうに顔をほころばせていた。
そして、「僕は昔ボクシングをやっていたんですが、囲碁もスポーツだと思ったんです。静かなスポーツですが、皆さんが楽しめるようアクションのような撮り方をしました」と話し、デジタルとフィルムどちらが好きかと尋ねられると「デジタルはこれが3本目ですが、フィルムの経験はありません。助監督としてフィルムの撮影に関わったことはありますけどね。でも僕は、デジタルでもフィルムでも表現したい感情やシーンは同じなので、監督としての感覚は変わらないし、本当に技術面での差くらいしかないと思いますよ。だから今後は、フィルムでも良い作品を撮っていきたいと考えています」と語った。

キャスティングについては「“囲碁王”=“静かな雰囲気を持つ人”というイメージがあったんです。しかも本作で登場する囲碁王は無職で途方に暮れている。スン・ソンさんが髭を生やしたときの写真がそのイメージにピッタリだと思ったんですよ(苦笑)。ワン・チョンヤンくんは100人くらいの子供をオーディションした結果、とても目が印象的で選びました。子供らしい表情で魅力的だと思ったんです」と監督。その言葉に照れ笑いを浮かべるワン・チョンヤンの将来の夢はもちろん役者かと思いきや、「今はまだ学生なので勉強を重視したい。今後も俳優として成長していきたいけど、その前にもっとたくさんのことを勉強してから挑戦したいです」と堂々たる発言で、会場を沸かせた。しかし、囲碁に関しては「僕には複雑すぎます。僕は水泳とか、バスケットボールとか、単純なスポーツが好きだから」と子供らしい一面ものぞかせた。

一方、父役のスン・ソンは大の囲碁好き。撮影中も囲碁に詳しくない監督に指導したほどで、「囲碁は何よりも大好き。17歳くらいから囲碁の勉強を始めて、プロにはなれなかったけど、本作に出演できたことで夢が叶ったようです」と満足気な表情を浮かべた。また、スン・ソンは10数年前に来日した際、日本の監督と共に戦争がテーマの映画を撮ったということも明らかになり、そのときの経験として「日本の監督をはじめスタッフの仕事に対する真面目さに感動して、僕自身、真剣に真面目に取り組む姿勢を忘れてはいけないと感じました」と語った。

予定していた時間を若干オーバーするほど盛り上がった観客とのQ&Aでは、監督が最後に「これは囲碁の映画ではありません。囲碁を通して親子の関係、心の交流を描いた物語です。監督としては観てくれた方々の反応が1番気になるものですが、本作をご覧になって涙が出るくらい感動してくださった方はいますか?」と呼びかけた。そして、それに応えるかのように観客のほぼ全員が一斉に手を上げると、「これ以上うれしいことはない」と興奮気味に語り、大きな拍手に見送られて出演者の2人と共に会場を後にした。

(Report:Naomi Kanno)