しっかり者の妹と頼りないダメな兄、兄弟ならではの掛け合いをおもしろくおかしく、時にホロッとさせる演出で仕上げた『バトンタッチ』、少女が飼っていた2匹の金魚の失踪、そして死を通して、少しずつ浮き彫りになる少女の過去の記憶が観る者に衝撃を与える『金の魚の目』、恋人との関係がうまくいかず悩んでいる寝具屋の娘・優子が、訳ありの過去を持つ気難しげなおばあさんとの交流を通して大人として、そして女性として成長していく姿を描いた『黒振り袖を着る日』。
23日(水)、短編国内コンペティションにノミネートした12本のうち3作品が上映され、監督自己紹介の後に観客とのQ&Aが行われた。

『バトンタッチ』岩城武彦監督:「数年前に映像の専門学校に入ってこれまでに自主制作で何本か撮りましたが、今回このような栄えある場所で自分の作品を上映できてうれしいです」
『金の魚の目』草苅勲監督:「僕は普段、役者をやっていて、監督としては本作が4本目になります。手探りでやっていますが、いろいろなアイデアは湧いてくるのでこれからも撮り続けていきたいですね」
『黒振り袖を着る日』柴山健次監督:「映画って暗い中で観客に一方的に発信する、伝えることを主にした媒体ですよね。そういったことを意識して本作を撮りました。普段は小作品の助監督や編集などに携わっています」

──今後の日本映画のために、監督はどのようなことをしたいと思いますか?

岩城監督:私にできることは当面、映画を撮ることだけです。“おもしろい作品を!”ということで、本作を撮りましたが、今の世の中TVも映画もおもしろいもので溢れています。でも、おもしろい=下品という風潮も感じるので、僕はおもしろいけど品があって質がよい作品を撮りたいと思っています。

草苅監督:難しいことはあまり考えたことがないですね、基本的に僕は役者としてやっているので(苦笑)。でも撮っていくうちに自分なりの発想がどんどん出てくるので、せっかくなら自分のよい部分を生かしてやっていけたらと思っています。

柴山監督:売れる作品と作家性の強い作品は相反するもののように言われていますが、誰が撮っても同じだというものが売れてしまうのは危険だなと思います。なので、撮る側は作家色を追求していくことが大事だと考えます。

──撮影時のエピソードをお聞かせください。

岩城監督:本作では公園のシーンが出てきますが、ロケハンをして“ここはいい場所だ”と思って選んだのに、撮影当日に限ってフェスティバルみたいな催しが開催されてしまったんですよね。よりによってなぜこの日に……と思いましたね(苦笑)

草苅監督:(岩城監督に)あの公園シーンでインド人の親子が一瞬映りますが、あれは偶然ですよね? サイコーでした!(笑)。僕の作品ではお風呂シーンを11月に撮ったんですが、金魚も泳がせていたので水風呂にしていたんですよ。役者さんはブルブル震えながらやってくれましたが、(来てくれなくなると困るので)あれを一番最後に撮影してよかったなと(笑)

柴山監督:撮影日数が4日間だったんですが、日が経つにつれ役者さんがやせていくんですよね。睡眠時間もみんな2時間位しかなかったし、それがちょっと心配でした。

──本作を撮ることになったきっかけは?

岩城監督:今までは何かメッセージをこめなきゃ!と思って作品を撮っていましたが、そういう作品作りをしていくうちに、わざわざ観に来てくれる方にメッセージを押し付けるのは傲慢なのかなと思うようになったんです。きっと出演者たちは、親にも親戚にも友人にも見せるだろうし、そういうときに幅広い世代の方が楽しめる作品が一番だと感じたんです。それでこのような作品を撮りました。

草苅監督:何かにぶつかったときに自分と真剣に向き合う瞬間がある、それを描けたらという想いで撮りました。

柴山監督:僕は伝えたいことが先にあるんですよね。これをどのようなきっかけで撮ったかというより、僕は伝えたいという純粋な想いだけで撮っています。

当日は、『バトンタッチ』照明を担当した柳沢誠さんと、『黒振り袖を着る日』出演者である安藤弘子さんも登壇し、監督たちと共に撮影エピソードの話に華を咲かせていた。

(Report:Naomi Kanno)