スペイン映画界からまた新たな才能が出現した。1974年生まれのホセ・エンリケ・マルチ監督は本作がまだ長編二作目である、長編コンペ「ガブリエルが聴こえる」。情熱的で自立心の強いバイオリン奏者のサラは、新しい街に引越ししてきて、同じ建物に住む青年がガブリエルと出会う。彫刻好きで手先は器用なものの、自分の世界に引きこもった暮らしをするガブリエルの内面に、音楽的な感性を見出したサラは少しずつ惹かれていく。しかしそんな二人の前にガブリエルの父親カルロスが現れることで、状況に変化が生まれてしまう。カルロスはある事件を起こし、刑務所に16年間服していたのだ。ガブリエルが隠れた才能を人前で開花させる前半、そして予想外の展開を迎える後半。観客の期待や予想と違う方向に進む展開が、見る者を画面にくぎづけにさせる。この本作上映後に、ホセ・エンリケ・マルチ監督がQ&Aが行われた。

Q:この映画の脚本は、実話でしょうか?
ホセ監督:ストーリーはオリジナルであり、実話もモデルもなく、構成を重ねて作り出した作品です。実は最初の脚本は長いものであり、ガブリエルの目線で描こうとしましたが、映画化するにあたり予算の関係で変えていきました。

Q:この映画のロケ地はどこでしょうか?
ホセ監督:撮影をおこなったのは、私の出身地でもあるクレーシアという場です。ですが私が映画を作るにあたってのコンセプトとしては、撮影場所を想起させないことでした。場所がどこであるということを指標する要素は、排除するようにしていました。それは時代背景においてもです。場所も時間においても普遍的なものにしたいと思ったからです。

Q:映画に出演している役者さんは、実際に楽器を演奏していますか?
ホセ監督:実際にこの映画に出演している役者さん達は演奏してません。しかし、俳優さんたちが演奏をひいているようにみえるようにする為のトレーニングをしました。ピアノもバイオリンの演奏の演技に関して4ヶ月にわたって、トレーニングをつんでいました。プロからみると、実際にひいているか、ひいていないかわかるようですが、一般的には見ていてわからないような出来になりましたね。この結果に満足しています。

Q:この映画にこめた思いとはなんでしょうか?
ホセ監督:どこでも受け入れられる映画です。ベースには人間があり、人間の恐怖心や愛など、日常にある心を描くようにしました。

Q:スペインには世界で活躍する映画監督が多数いらっしゃいますが、尊敬している映画監督はいらっしゃいますか?
ホセ監督:尊敬する映画監督は沢山いますが、今回の映画を作るにあたって影響を受けた監督は、メロドラマ風のダクラス・サーク監督の50年代にアメリカで作られたものです。その作品の色使いに影響しました。そして、人間味ある関係の、フランソワ・トリフォー監督。本作の後半部分では、日本的な要素がおりこまれているのですが、そういう要素は日本の小津監督に影響をうけました。

この映画祭に参加するできた喜びを語ったと共に、今後も映画作りに励みたいと語った。

(Report:大倉真理子)