これまでずっとイジメられ続けてきた高校生のヨーセップ。彼へのあまりの集中攻撃ぶりに呆れはじめたクラスメートのカスパルは、彼をかばったことで同じ様に標的にされてしまう。そこからクラス対二人の闘いが始まった。
エストニアのテレビ業界でキャリアを積み、本作が初の長編となるイルマル・ラーク監督が7月21日の上映後に登壇し、冒頭の挨拶で「最後まで見てくださった観客の皆様の忍耐力に感謝します。この映画は矛盾に満ち、私の混乱をも反映しているからです。」と述べ、さらにこう続けた。
「映画の最後に銃撃シーンがありますが、少なくともアメリカで3回、ヨーロッパでも2回起きていることです。実は私はアメリカ留学時にコロンバン高校の事件があり、このような事件をなくすためには何が変わればいいのかを学生に聞きました。それに対して子供達は私に本当にあった色々なことを語ってくれました。エストニアでは銃撃事件はありませんが、それ以外は現実に起きたことを基にしています。もうひとつ重要なことは“なぜいじめはおこるのか?”私もいじめを目撃したことがありますが、参加はせず、かわいそうだと思いながらも眺めていたので、学生時代から何もしなかった自分の罪の意識をひきずっています。今の学校のいじめ問題に関して私は傍観してしまう人たちの方が問題だと思います。私たちが傍観を続ければ、同じような結末になるからです。

Q:いじめる側、いじめられる側のキャスティングにインパクトがあって素晴らしかったのですが、彼らをキャスティングした経緯について教えてください。

キャスティングについては、ある種奇妙なプロセスを経ました。というのは、彼らと一緒に脚本を執筆したといえるからです。エストニアにはスクールシアタームーブメントという高校の演劇祭が年に一度あり、若い役者がただ演技をするだけではなく、個人的な思いや経験を観客と分かち合っています。私はその中の15人のグループと題を決めディスカッションをしました。1日目は苦痛、2日目は罪、3日目は恥について。一人の学生が心を開いて微妙な内容について実体験を話し始めたら、他の生徒も次々と話し始めました。時には私が恐れを感じるような話もありました。その後、ある地方で合宿を行い、10ページの台本を学生に渡し演じてもらい、「実際にこんな会話はしない」というようなフィードバックをもらっていきました。このようにして学生達が演技を繰り返すうちに、誰がどの役にピッタリ合うのかが見えてくるようになったのです。私が直面したのはイジメのボスのキャスティングで、なぜならグループ内にそんな性格の学生はいなかったからです。困った結果、典型的な選択をしました。ボスのアンデレスははっきりしていて冗談ばっかり言って、一番輝いてもいるし、とてもいい子なんだけど、いざ撮影にとりかかると、どうしてこんなひどいことができるんだろうと何度も何度も言っていました。彼自身父親との関係が難しかった。子供と父の描写は実はアンデレスの実体験を基にしているんです。
 また、いじめられるヨーゼップ役の彼は雰囲気が和やかな学校に行っていて、クラシックの勉強をしています。いじめの対象になったこともいじめを目撃したこともないが、この子に他の学校ではいじめにあう対象となる可能性を感じました。クラシックにどっぷり浸かっていて、ポップミュージックが好きな他の子たちとコミュニケーションが取れないことがあるからです。
若い俳優の演技は素晴らしいと思います。私はプロの俳優とも仕事をしてきましたが、彼らほど真剣に臨む俳優は稀です。一つだけ例をあげると、銃の準備をするシーンがある撮影前日、二人が演技について私に質問をしてきました。私は「自分の身体的な状況を考えなさい」といいました。加えて彼らに少年は眠れていない。ベッドに横たわったかもしれないけれど、ある同じ映像や言葉がグルグルと回っていて、ある意味頭が空っぽの状況なんじゃないか。」そして翌日撮影場所に来た二人は目にクマを作って眠れていないのがよく分かりました。

Q:なぜ二人のうち、一人だけ死ななかったのか?

一つには問題提起ということがあります。観客自身に社会の一員として、彼はどうなっていくのかを考えてほしかった。パリにはマリー・アントワネットの処刑を上演する劇場があり、彼女がしたことを上演した後、観客は処刑の判断を求められるという参加型の劇場です。『ザ・クラス』の映画を作った後も、裁判員や教会の牧師に参加してもらって裁判のシミュレーションをしました。そしてカスパルの判決は有罪でした。カスパルがもし無罪になった場合、“何か問題がある時に皆殺しにすれば逃れられる”というメッセージを社会に残してしまうという理由からでした。有罪だが刑期は長くなく、精神分析も行われるだろう。カスパルのような経験をした人は、普通の生活に戻ることは無理だろうから、おそらく心療病棟で暮らすことになるだろうという結果が出ました。

(Report:Miwako NIBE)