ある孤立した村で父親と2人で暮らす16歳の少女・アレックス。母親が悲惨な死を遂げてから、心を閉ざしてしまった父親との関係に悩むアレックスは、ある日自分と同じように過去を背負う22歳の青年エクトールと出会う—。
映画『赤い蟻』の上映後、脚本家であるローラン・デニが登壇。観客からの質問に答えた。
自身の初長編作となり、撮影はルクセンブルクで行われた本作。観客は“子供が親に思う愛情や、だらしない親の姿などの描写、そして娘の存在を本当に認められたシーンに感銘を受けて涙しました”と感動を伝える場面も。
デニ氏はそれぞれの感想に耳を傾け、笑顔で質問に答えていた。
以下、Q&A内容。

●風力発電が象徴的に使われていますが、何の意味があるのでしょうか?
「これはステファン・カルピオー監督が風力発電に魅せられた事がきっかけでした。彼が言うには、まるでヘリコプターについて回っている歯車のように、動いているのに実際はその場所からは動けないという、父親の状況と似たものがあるのだそうです。」

● 何度も繰り返し映される蟻の行進ですが、これの意味は?
「これは、フランスの「終わりのない愛」という曲が元になっています。2人の恋人は、上に赤い蟻が這っても、やがて刺されてしまっても抱き合う事をやめないという内容なのです。私たちは、この映画では赤い蟻をさらに象徴的なものにしようと思いました。蟻という生き物は、集団で行動し、他者のために生きています。アレックスとエクトールも自分以外の人物に人生を捧げているので重なる部分があると思います。」

● アレックスが母親を事故で亡くしたのは何歳ごろなのでしょうか?
「年齢の事は、あまり細かく描くと説明的になってしまうのでぼかしましたが、当然制作する上でかなり話題に出ていました。私自身の中では、8歳ぐらいなのではないかと思います。」

● アレックスを演じたデボラ・フランソワさんの存在感が非常に素晴らしかったのですが、どのような女優さんなのでしょうか?
「彼女が見出されたのは、『ある子供』という映画のオーディションで、1000人ほどの中から選ばれました。監督も、今回のキャスティングでは彼女に対して圧倒的な存在感と、非常にエネルギッシュなものを感じていました。実際の彼女も、こうと決めたら絶対に意志を曲げないところがあり、アレックスと似ています。」

● この作品はシネマスコープサイズで制作されていますが、フィルム上映される事を目的としてこのサイズにしたのですか?
「監督は、あえてシネマスコープサイズで作る事で、芸術的な意味を持たせる事ができるのではないかと考えました。このサイズにする事によって、登場人物の孤独感が表現できると考え、スクリーンの中での動きに色々な意味合いを付ける事ができます。
例えば、主人公の父親が電話をしているシーンの背景に、母親が事故に遭った車が映っているのですが、シネマスコープならそういったシーンも的確に表現できるのではと思いました。きちっと言葉で語るのではなく、映像で見せるという事に意味があるのではと考えています。」

● アレックスの父親が木を切っているのは、母の事故を木のせいだと思ってやっているのでしょうか。それとも、自分を責めているのでしょうか?
「彼は、単に怒りを木にぶつけて切っている訳ではありません。8年前、事故当時から精神的に時が止まったままで過ごし、妻に対する怒りを込めて木を切っている訳です。
彼にとって、妻は行動するための翼であったのではないでしょうか。風力発電のプロペラのように、動くために必要だった妻がいなくなってしまって、行動できない男になってしまったのです。」

(池田祐里枝)