ヨルダンから届いた本作は、世界中見てみたいという夢も叶わず、本や旅行者とのふれあいで旅行気分を味わう日々を送っていた一人の孤独な航空清掃員の男が、ごみ箱からパイロットの帽子を見つけたところからはじまる。彼の名はアブ・ラエド。自らをキャプテンだと名乗ってから、彼の人生は思いもしない方向へと向かい始めた──。

上映後の会場は大きな拍手に包まれ、アミン・マタルカ監督が登場するとさらに拍手は鳴り響いた。
監督はその様子をうれしそうに眺め、「今日はありがとう。SKIPシティ、そしてDシネマで上映できて光栄だよ。撮影当時はまさかヨルダンから日本へとこの作品が渡るなんて思っていなかったから、そういう意味でもうれしい」と笑顔を見せた。

主人公のアブ・ラエドを中心にどの役者もすばらしい存在感と魅力を放っているが、なんとアブ・ラエドを演じた役者と本作の中でDV男を演じる役者以外はすべて素人の人間だという。
「子供たちはみんな素人の子たちだよ。難民の子なんだ。でも才能が光る子供たちと仕事ができたことは本当にエキサイティングだった! 主役の役者はとても謙虚で、みんなをリードしていた。そのように大御所から素人まで幅広い人間と仕事ができたのはいい経験だったよ。ちなみにDV男を演じた役者は本当はすごく優しくていい人だよ(笑)」

また、ヨルダン製作作品としては50年ぶりの作品となる本作。監督は「ヨルダンには映画業界といったものがないんだ。でもヨルダン南部では映画学校も設立されたり、新しい動きが始まっている。本作は2億(日本円)の資金で作ったんだけど、資金集めに6年もかかったよ」と苦笑いを浮かべた。

その後、真剣な表情で「ヨルダンや特にアラブと言うとみんなテロのイメージが強いと思う。でもそれはあくまで西洋の言葉で固められたイメージだ。どこの国も同じだということを、私たちの手で伝えたかったんだ」とコメントし、「今回、政治や宗教に関係のない映画を撮りたかった。本作では<許し><犠牲><愛>をテーマに描いた。それは世界中どこにでもあるテーマだからね。DV描写ではたくさんのリサーチを行ったんだ。ヨルダンでは最近になってようやく、それが社会現象として認識されるようになったから余計にきちんと描かなくてはいけないと感じた。とにかく人々の人生に影響を与えるような映画を撮りたいと思ったのはたしかだね」と、言葉を丁寧に選びながら語った。

幼いころから映画監督に憧れこの業界に入った監督だが、ビジネススーツのサラリーマン時代もあったそう。しかしデジタルのハンディカメラを買って、独学で撮影を始めてからそのおもしろさにどっぷりハマってしまったという監督は、「私はフィルムよりデジタルのほうが好きだね。フィルムの残り、いわゆる経費を気にせず撮影できるからね。本作もデジタルじゃないと完成しなかった作品だよ」と自信満々に胸を張って答えた。

そんな監督の次回作は、なんと日本でも有名な「忠犬ハチ公」から影響を受けた話が基となっているという。
ぜひとも監督の今後の動向に注目したい。

(Report:Naomi Kanno)