押井守監督“未来を見据えて”自身の記念的作品を全編リニューアル 映画『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊2.0』舞台挨拶
『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』公開記念!8月2日に4年ぶりとなる新作の公開を控えた押井守監督の伝説的映画 『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(95)が、自身により全編フルリニューアルされ、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊2.0』として12(土)に特別公開された。
全国5大都市公開のうち、新宿で行われた舞台挨拶には、わざわざ鳥取から駆けつけたというファンもいるほどの大盛況ぶり。
それもそのはず、単なるリメイクではなく、公開当時には技術的に不可能だったシーンを新たに3DCGで制作し、全カットにビジュアルエフェクツという映像調整が施されている。
台詞・音響・SEもすべてリニューアル。声優陣も13年ぶりに集結して新録。人形使い役に新たに榊原良子を迎え、様々な試みがなされている。
舞台挨拶に登壇したのは、大塚明夫、田中敦子、柳原良子、押井守監督。
田中は、「私が演じた草薙素子は、私にとって長々付き合っているけれど、なかなか本性を見せてくれない恋人のような人です。するりと手の中からすり抜けて遠くへ行ってしまいそうな危うい感じですが、『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』や『イノセンス』の時のように、必ず私の元に戻ってきてくれるという存在です。草薙素子に永遠の愛を。」と、長年この作品に関わってこれた喜びを挨拶で述べた。
榊原は「95年当時は、尊敬する家弓家正さんが人形使いを演じていらして、押井監督が今回女性でやりたいとおっしゃって下さいました。収録の3週間ぐらい前に稽古を始めましたが煮詰まってしまって哲学書を読んだりしました。家弓さんとは違う解釈で演じたつもりですが、楽しんで頂けたでしょうか。」と呼びかけ、観客から拍手を受けた。「また難しい役を頂けたら、命を懸けて演じたいと思います。」と、楽しみな意欲も見せる。
押井監督は「これを作った当時は生活に困っていたのですが(笑)公開されると色々な騒ぎになって、振り回された時期もありましたし、自分の作ったものの中で記念すべき作品なのではないかと思います。
13年経って、『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』の打ち合わせで、サウンドデザイナーのランディ・トムとトム・マイヤーズにリニューアルの話をして、“音をもう一回付け直したいけれど、やりたいか”と聞いたら、是非やりたいと言ったのが最初のきっかけでした。
基本的に、リメイクやリニューアルはやらずに来て、これからもやらないと思いますが、この作品は公開当時は興行的に成功したとは言えず、意外とスクリーンで観られていない作品なのではないかと思い出して、是非もう一度スクリーンで皆さんに観て頂きたいと思ったのが最大のきっかけです。
今日の自分の中の映画の基本を作り出した『ブレードランナー』という映画は、映画史に残る作品ですが公開当時はあまりスクリーンで観られていません。このファイナルエディションが公開されたのを見て、自分の作品も作り直してみたいと思った個とは確かです。
それだけではなく、これから僕がどんな作品を作っていくのかに関する架け橋ともなっています。日本のアニメーションはこれからますます変わっていくと思いますが、この作品の中には今後やりたい試みが一部入っています。
単に昔の作品を懐かしむのではなく、未来を見据えた上でやった仕事です。元々のものと、こちらと、どちらが将来残るのかはわかりませんし、映画にオリジナルというものは存在しません。繰り返し上映されてこそなのだと思います。本日はどうもありがとう。」と、リニューアルに込めた思いを語った。
大塚は、新たに声を入れなおすにあたり意識した事を「映像はほとんど同じでも、人間関係が少し変わる。人形使いが女性に変わった事で、僕の中でも変化がありました。13年ぶんの役者として積み重ねた事が入りすぎてしまわないように、あれこれ変えてみなくても勝手に変わるだろうと思ってやってみました。」とコメント。
『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』にも参加する榊原は、「『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』は、今まで頂いた事のない役でした。人形使いの役は、あの狂的なムードが好きでドキドキ、ワクワクしながら演じていました。家弓さんという存在が大きかったので、テストの時にはヒザが震えていました(笑)両方とも、私の持っている精神を注いで演じました。」とそれぞれについて語った。
『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』の公開を控えて、押井監督の心境は
「『イノセンス』の時もいつも、作り終えると“もうやる事ないな、やり尽くした”という気分なのですが、スカイは違いますね。自分の中でビジョンを搾り出すように出し尽くすというのは消耗する作業で、頭はハゲるし、胃は痛むし、ストレスで太るし嫌な経験が多くて(笑)
スカイに関しては、人生が楽しくてしょうがないという地点に突入したので中身も違うんじゃないでしょうか。色々あって大変でしたが、脱力するような疲れはありませんでした。誰のために何を作るかは明快な作品でした。こけたらどうしようかという事ではなくて、何事も前向きに考えるという事ですね。
自分の作ったものを見返すという事はないので、今回のリニューアルで攻殻を観たら、これはアニメーションのあるピークの時代に作った作品なんだと思いました。今、これだけ作画力のある現場はどこにも存在しません。作画の力で作品を作りあげて行くという事は、僕にとってももうないと思います。
スカイに関しては淡々とした心境ですが、もう少し経つと焦りが出てくるかもしれませんが(笑)
『うる星やつら オンリー・ユー』で懲りてから一回もお客さんと一緒に劇場で初日を観るというのは、怖いのでやめました。」とのこと。
『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊2.0』は、明日7月13日(日)から、新宿ミラノ1での上映が決定している。
記念すべき新装版登場の目撃者となるべく、劇場に足を運んでみては。
(池田祐里枝)